『笑顔』(スク→山) ※R16 |
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| 山道の先、隔離された自然の中、山本がスクアーロに剣を習うのは、 高校に入りやめてしまった野球の埋め合わせでもあった。 木々の間、顔を覘かせると誰もいない。 ほっとして進み出た、開けた修行場の、 切り株に腰を降ろし下を向く。 野球の練習も、厳しいものであったし、耐えられるだろうと思っていた。 しかしスクアーロの修行には厳しさとはまた違った辛さがあった。
ふと、気配を感じ振り返る。 スクアーロが来ていた。 仏頂面で山本の存在を確かめると、剣を取り出す。 笑い掛けてみたが軽く流され、目で修行の開始を促す。 チームメイトとの会話。監督のたまに出る労い。 先輩は厳しく、時に怒鳴ったが、温かく見守ってくれていた。 昔はそこに確かに感じることのできた、感情が今は、ない。 スクアーロの無機質な目は自分に冷たい。 嫌われているを通り越し、憎まれているよう感じる。 「スクアーロ」 休憩の入ると同時、 いつものよう、自分に背を向けてしまう前、 呼んでみたが応えがない。 「なぁ、あの、 聞きたいことが、 あってさ」 「・・・何だぁ」 心底厄介そうに、眉を寄せての返答。 この声の色にすでにめげそうだった。 「俺、強くなってるかな?ちゃんと」 「何だぁ、俺の指導に不満でもあんのか?」 「いや、そーじゃなくて、えーと」 ただ少しでも、話しをし、 少しでも、好意を向けて欲しい。 温かい目で、見て欲しい。 「不満あんなら、てめぇもうここに来るな」 「・・・それ、破門ってことか?俺」 「ああ」 「・・・質問、しただけで?」 「・・・ああ」 「はは、・・・きびしーな」 苦し紛れに出たのは、乾いた笑い。 どんなに苦しくても笑っていれば乗り切れると、 山本は信じていた。 「笑うな」 「・・・は」 「前から思ってたんだぁ、 てめぇの笑いが癇に障る、 笑うな」 「・・・」 凍るような台詞。 これをぶつけられた心が、 揺れないとでも思っているのだろうか。 「ッ・・・」 笑みの形のまま、ぼろぼろと出た涙は不可抗力。 愛想よく振舞えば大抵は好かれた。 マイナスの感情を向けられることに、 人に嫌われることに、あまりに慣れていなかった。 「っは、・・・きつ・・・いなー、 さすがに・・・」 油断して垂れて来た鼻水を啜り、 本格的に泣きそうになっている自分が滑稽で、 さぞ不快な存在に見えているだろうと、 また目の前の大人に煙たがられるのだろうと、 思うと息まで苦しくなって来る始末。 「俺、・・・ッあんたを、結構好きだからさ、 かっこいいと、思って、 憧れ、とかちょっと、あって、 だから教えてもらえるって聞いて、 剣術、興味あったし、俺、 スゲー嬉しかったっ、んだけ、ど、 そんなに迷惑なら、 もう・・・」 喉が痛み、言葉が出ず唇が震える。 「今、まで、 ありがとうございました! 世話、なりましたッ!」 やめろと言われていた笑みを、 最後だと思い、前面に出した。 歯まで見えるような、 満面の笑みを浮かべて、 それは山本の精一杯の好意だった。 笑い掛ける以外に、 浮かばないのだ。 その笑みを否定されたら、 山本にはもう、 スクアーロに関わって行く手段がない。 次から次と出る涙がしょっぱい。 「・・・どうしろってんだぁ俺に」 低く低く、うめくように呟かれ、山本は黙る。 さっさとこの苦しい場所を去りたくて気が急いたが、 スクアーロの言葉を、長く聞いていたいとも思った。 「てめぇに欲情してる」 「・・・っ?!」 ぼそりと、突拍子もない告白。 意味を把握できず、白くなった頭。 「笑い掛けられると、 辛ぇんだぁ、 俺は、変態だ」 「・・・」 「てめぇいくつだ」 「・・・15だけど」 「う゛ぉお゛い、ちくしょう若すぎるだろぉが、 やっぱ俺は変態だぁ!」 「・・・スクアーロ?」 「てめぇは、さっさと、俺の元去ったほうが身のためだぜぇ、 いつ手ぇ出すか、わかんねぇ、 つまりだ、危険なんだぁ俺はぁ、変態趣味だぁ、 能天気に笑ってんなぁってだなぁ、 言いたかっただけだぁ、 泣く必要ねぇだろう、悪かった」 「・・・」 「泣かせる気はなかった、悪い」 「・・・」 「う゛ぉお゛い、悪いっつってんだろぉがぁ!」 「あ、えっと、何だ、 謝ま・・・ってんのか? スクアーロ」 「そんくれぇも理解できねぇのか」 「いや、その」 「とりあえず涙拭けぇまじで襲うぞぉ」 「お、おう」 「おうじゃねぇ、ほら、 だから、くそっ!」 動揺で停止した頭が、指示においつかず、 切り替えの遅い山本を抱きしめ、スクアーロは溜め息をついた。 「見てるとやべぇんだっつってんだろぉがぁ、 欲情してるって意味わかるかぁ、 てめぇを犯したくなってるってことだぁ、 身の危険を悟れぇガキが!」 「・・・あ、じゃ、スクアーロ、 俺を嫌ってるわけじゃないのか?」 「ああ」 「じゃぁ、これからも指導してくれんのか?」 「・・・ああ」 「そっか・・・」 「だが俺の前で笑うなぁ、泣くのも今から禁止だぁ」 「おう!」 「よし」 「・・・」 「・・・」 抱き込められた山本が大人しくしているのと、 抱き締めているスクアーロが、中々体勢を崩さないので、 二人はしばらく抱き合ったまま、棒立ち。 「心臓凄ぇなぁ、あんた」 「うるせぇ」 腕の中、冷たい目の主が、 こんなにも暖かな、体温を持っていたこと。 体勢に少し緊張しつつも、山本は元気を取り戻していた。 一方のスクアーロは、今後一切、山本を自分の手の届く位置に、 立たせてはいけないと思った。 果たしてこの腕の中の、存在を無事解放できるか、 自分との戦いに、いつもの仏頂面で挑む。
END
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Friday, 14, Dec | トラックバック(0) | コメント(0) | ●他 | 管理
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