『祝辞』(レヴィザン+スクベル)-2 ※ボスの誕生日 |
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| 「レヴィ」 「は・・・!」 祝賀の終了と同時、部屋に例の椅子を取りに向かった背から、 予想外の人物の声。横にルッスーリアを従えた、不機嫌顔。 「あら、今日始めて見るんじゃなぁ~い? どこ居たのよもう、今日はボスの特別な日でしょ!」 「警備を」 「・・・祝賀は終わった」 「は、・・・その、今は、・・・ものを取りに、自室に向かおうとしていました」 「必要ねぇ、後にしろ」 「は・・・!」 部下に運ばせるよりは、己の手で持って祝いを示したかった。 その気持ちが災いしてしまった。 「ねぇボス、今日はお誕生日なのに機嫌が悪いのはどうしてなの」 「疲れだ、・・・誰の顔ももう見たくねぇ、てめぇも失せろ」 「あら、そうしたら護衛が居なくなるじゃない」 「そこの馬鹿を連れる」 「わかりました、じゃぁわたしは退散します」 「・・・」 無言、位置を変わる際こちらの肩を叩き、ルッスーリアはウインクをして去った。 しかし後に続いたのはひたすらの沈黙と、ちくちくとした空気で、 向こうもこちらも何時の間にか早足となってしまった。 「では、ボス、失礼します」 「・・・おい」 「・・・」 掛けられた声、急く心。 自室から奉げ物を持ちまた顔を出す気でいるこちらと違い、 向こうは祝辞の一つも言えない無礼な部下と思っているのだろう、 胸が苦しくなりますます気が逸った。 「言うことがあるだろうが」 「は・・・!」 「俺に」 「は・・・!」 「しゅ・・・就寝の言葉とか」 「は・・・!おやすみなさいませ、ボス」 「カスが!死ねっ!」 目の前に迫った靴底、額を蹴られたらしく、 部屋から飛び出た俺を、 遮断するよう戸を閉めた人の、 怒りに絶望的な気分。 「あの!」 それでも恥を凌ぎ勇気を絞り、 戸に縋って声を張り上げる。 「あの、どうかお時間を!20分、程度です」 「・・・」 返事の代わり、ガン、と戸を蹴られたらしく衝撃が伝わる。 「ボス・・・!」 再び、ガン、と戸を蹴る音。 今度は覚悟を決め自室に走る。 最後の機会だった。 本当は誰よりも早くに意識をしていて、 誰よりも早く祝いたかった心内。 この惨めな状況が悲しくて苦しい。 一日を気分よく送ってもらいたいと、 思っていた人を、不快にさせて。 その原因が己。 「っ・・・」 唇を噛み締め自室の戸を開ける。 「?!」 ぽっかり、穴の開いたような違和感。 その場所にあるはずのものが無い恐怖。 「まさか・・・?!どこに・・・?!」 上る熱、焦燥に襲われ、部屋を掻き回す。 しかし目に着いたのは時計で、 あと5分の猶予。 泣きそうな想いで手ぶら、 その人の元に駆けつける。 「ボス・・・!」 伺い無く勢い余り、戸を開けると探していた物。 座る姿がしっくりとはまり、絵になるため感動で目頭が熱くなる。 「貴様からだと、ベルの奴が運んで来た、朝一にな」 「・・・」 脳裏に浮かぶのは朝一人、最初にこの人の元に向かった悪魔が、 椅子を持っており、まず俺の祝辞を伝えてから自身の祝辞を済ませた姿だった。 (遠慮など、らしくないことをするから・・・) どうやら一番を譲られていたらしいが、悪魔らしい迷惑な思いやりに眉を寄せる。 「貴様は物だけで祝いを済ませるのか」 「いえ・・・」 「・・・」 心なしか柔らかに、なった眼光に守られ、 胸の奥から、溢れる愛しさを込めて顔を上げる。
「お誕生日、おめでとうございます、ボス」
END
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Friday, 26, Oct | トラックバック(0) | コメント(0) | ●ヴァリアー | 管理
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