『ボス戦』(十ミヤ) ※R16 |
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| 「三宅、・・・来てるよ」 ゲーム機片手、パッツンの髪の下、 いつものやる気のなさそうな目で、いつもの平坦な声の調子で、 舞茸の報告。思わず耳を塞ぎたい情報。 「誰が」 「誰でしょう」 「・・・」 舞茸の指差す先、ドアの隙間、ちらりと覘く強面。 短く刈られた金髪と、左頬の十字傷、十文字一輝。 アメフト部一年、雄ゴリラ(俺のつけた陰口) 「凄い機嫌悪そうだけど、何かあったの?」 部室、サッカー部部室。 (来るなって言ったのに) 深い深い溜め息。 「ぁー・・・・」 肩を落とし思わず片手で顔面を覆う。 (もの凄ーく、 顔合わせたくないんですが、 何故この嫌がらせのようなタイミングでいらっしゃるのでしょうか) 首元に纏わりついている癖気を弄りつつ、のそのそと戸の前へ。 サンダルを突っかけ部活ジャージのポケットに手を突っ込んで、 目を合わせないよう気をつけた。 「何の用だよアメフト部、 喧嘩売りに来たのかよ」 がっちりした肩の向こう、雨がしとしと。 仏頂面の十文字の片手、黒の傘。 (あー、黒似合う、黒の傘似合う) アイテムにときめいたことは言わずこちらも仏頂面をつくった。 「会いに来た」 「誰に」 「おまえに」 「・・・室さーん、 入部希望者みたい、 引き取ってー」 助けを呼んだが反応は無い。 そうしてる間に首に腕を回され、 外に引き摺り出される。 「ふざけんな、痛ぇ、 痛ぇってこの・・・」 「・・・ちょっと来い」 「はぁー?」 「来い」 「室さーん、 入部希望者だってば」 捕まれた腕を引き抜こうと頑張りながら声を張り上げる。 「室さん、室さんってば」 今度は腰に腕が回って来た。 (何する気だよおまえ、 何する気だよ!) 「室さんさっき帰ったよ?」 舞茸はゲームしながら、 また俺に都合の悪い情報をくれた。 ゴゴーン、なんて、 ゲーム機から響いて、 舞茸が舌打つ。 「アー、負けちゃったよ三宅、 これ俺無理、むずい」 俺が相当にピンチだと言うのに、 ゲーム機から目を離さない薄情な親友が嘆く。 「おまえゲームぐらい、もチョットねばれよ、 大体それな、かなり・・・」 言いかけた処、担ぎ上げられたと気付くのに数秒。 「おぅわ」 短い悲鳴を残し雨の中ジャージで運ばれていく俺。 十文字の肩が腹にめり込んで苦しく、 ついでに背は雨に打たれ濡れていく。 「おい雨、 雨冷てーから、 おい! 十文字! 内臓出る、 降ろせって、 腹きつい! 雨!」 向かう先に校舎。昇降口(閉じてるよこの時間じゃ) 「十文字!」 叫んだところで、返事は普通に無い。 「シカトかよ! おい!」 何を考えているのだろうこいつは。考えるのが虚しい。 降ろされた昇降口は、(やっぱり閉じてる) 雨の埃っぽい匂いがむんむんで、非常に居心地が悪い。 「うぜー、 もう、 うぜー、 十文字うぜー」 段に座り込み悪態開始。背に出入りのドアのガラスの冷気。 入り口は閉じているが、外の屋根のある部分、若干の空間。 段に腰を掛けた奴は、黙ってこっちを見てる。 「どうだ」 「何が」 「体調」 「あー」 (直球はヤメテ、お願いヤメテ) 「昨日は・・・その、」 「十文字!」 「何だよ」 「アー、おまえさ、 黒の傘いいよ、 ・・・すげー似合ってた」 「・・・おう」 決まり悪く流れる空気、居た堪れない。 俺は立ち上がり尻の砂を払う。その動作を真剣な目で、 見つめてる十文字(凄く気持ち悪い) 「じゃ、俺戻るわ」 「待て」 「昨日のことにはもう触れるな!」 寝た次の日とか、普通顔合わせたくないだろ。 (しかも俺は掘られてんだからな) 「恥ずいんだよ!!」 叫んだ。思いのほか大声。 防御するように、力一杯。 「・・・おまえ、可愛いな」 呟いた、恋人の声に逆上。 ゴツ、と音がして拳。 (ああ、殴っちゃった) 「痛ぇ・・・」 「このッ、雄ゴリラ!」 「ああ?!」 喚いて、逃げ出した足、 グラウンドを突っ切る。 見えてきた部室の入り口には、傘一本、 十文字の指してきた黒い傘が置き去り。 ガン、と音を立てて部室に入った俺に、 舞茸が寄って来て、 ゲーム機を渡した。 「やっぱ無理だわ、 ボス強い、 むかつく、 倒してギャフンって言わせて」 (今時のボスはギャフンなんて言わネー) しかし顔の赤らみを隠すため、 下向いたまま何度も頷き、 ゲーム機を受け取りボス戦を始める。 (俺何やってんの、 もうわけわかんねー アー、ボス強ぇ) 「三宅ー、おまえの携帯、メールきてる」 遠く、錯乱する意識の向こう、舞茸の声。 「誰から」 「んー?室さん?」 「読んで」 「『今日一日中おまえのこと気になってずっと考えてた、 平気そうで何より、またおまえの家泊まる、 傘、褒められて嬉しい』って、ねぇこの雄ゴリラって、 室さんだよね?」 ゴゴーン、ゲーム機が悲鳴を上げ、 俺の全身から汗が噴出す。 「室さん今日一日中ずっと三宅のこと考えてたんだ、 てか、何時の間にお泊り会したの、俺も誘ってよ」 「・・・」 頬を伝うのは何だろう、生温かい。 「あれ、三宅泣いてんの、 何で?」 「ボス強ぇ」 部室。サッカー部部室。 俺と舞茸を覆う、 箱の外は雨がしとしと。
END
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Saturday, 04, Aug | トラックバック(0) | コメント(0) | ●三宅受け | 管理
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