『湿気』(十ミヤ) ※甘 |
|
| サッカー部部室、人の気無し。 「なぁ十文字」 部外者一人。それと俺。 「あ?」 「梅雨だぜ」 「おう」 男二人だけ。密室。(しかもホモップル) 「俺らうざくねーかな、 ってかきもくね」 (きもい、正直きもい、最悪だ) 俺を抱え込み、アメフト雑誌を読む十文字。 「きもくねぇ」 「きもいって」 「きもくねぇ」 「きもくねぇの?」 「きもくねぇ・・・」 断言、されて黙る俺とまた雑誌に目を向ける十文字。 胡座の上、酷く居心地の悪いこの席に、 大人しく乗っている俺も俺だ。 昼休み、鍵当番の特権の、部室使い放題(現在閉じこもり中) (ほらアレ、主将も彼女連れ込んだりしてるし) (いや、てか俺の場合彼女じゃないけど・・・あ、うわ、うわ) 「不毛っ!」 「あ゛?」 「どうしてこんなことに・・・くさい、汗くさい・・・」 「悪い」 「いや実際じゃなくて、イメージってか」 「おう」 「・・・もういい」 (折れたんだ、俺はホモップルの片割れだ、そうだ、 男同士でキス男同士でベットイン男同士で・・・) 「嫌、やっぱりきもい!きもいーッ!」 ばたばたと、足を踏み鳴らし暴れる。十文字は少し状態を崩し、 アメフト雑誌を床に置いた。 「・・・きもくねぇ」 「きもい」 「きもくねぇ」 「・・・十文字のばーか」 「ああぁ?!」 (沸点低すぎ) 「嘘です」 「おう」 「でもきもい」 「きもくねぇ」 「・・・きもくねぇかな」 「きもくねぇよ」 「・・・そっか」 「そうだ」 「うん、そうしとく」 「そうしとけ」 (ああ、俺ばっかり折れてる気がする) 意外にも、綺麗好きの室さんの手、 整った部室の、さっぱりとした景色。 ユニフォームが一枚だけ、散らばっている。 室さんが不機嫌になるじゃないか、 どこのどいつだ、とナンバーを伺う。 (ああ舞茸・・・おまえって奴は・・・) 「三宅」 飛んだ意識、呼ばれて戻れば十文字は顰め面。 「何だよ」 「湿気ー・・・凄ぇな」 「・・・」 (何だ湿気って、どんなネタふりだ) 「梅雨だし」 「ああ」 「てか昼、何時までだっけ」 「半」 「あとー・・・、 40、分、くらいか? うわ、長っ」 「そうでもねぇ」 「・・・」 (エー・・・・) 「長いよ」 「長くねぇ」 「長いよ」 「長くねぇ」 「長くねぇかな」 「長くねぇ」 「・・・」 「・・・」 「・・・あ、飯は?」 「食った」 「・・・」 「・・・」 「ウン、あの、でも、俺は、まだ食ってねぇっつか、 しかも買い弁だし、だから、あれだ、 そろそろ行・・・てか、 そろそろ、 その、パンなくなるからそろそろ・・・」 「・・・三宅」 「・・・はい」 「・・・腹減ってないよな」 「はぁ?」 「減ってるよ」 「減ってねぇ」 「減ってるって」 「減ってねぇ」 「減って・・・ウン、ません、ませんよ、はい」 (眼光鋭いよ、眼光やばいよ) 「あと20分・・・」 「・・・」 「20分だ」 「・・・長っ」 「長くねぇ」 「長いよ」 「・・・15分」 ぶっきらぼうな声の、十文字が珍しく妥協。 これから最低でも15分続く膝乗りの時間。 「あー・・・」 去年、冬只中、寒さ凌ぎのスキンシップで、 胡座をかく十文字の懐に寄りかかった。 本当に軽い気持ちで、 「あったけ」とか呟いたりして、 冗談の一種だった。 それが、振り返って見た十文字は、 あんまりにも真っ赤で、 あんまりにも感動してて、 何時の間にか、日課となった。 水曜、昼、逢瀬時。 「ってか、聞くけどさ、十文字、 楽しいのかよ、これ」 「嬉しい」 「あーそう」 大の男二人が、人間椅子で密着。 (寒い、正直寒い、最悪だ) 腹に回される腕は相当猛々しく、 俺は俺で身長は高いほうで・・・。 「三宅」 「あん?」 「癖毛」 「・・・」 「好きだ」 「わけわかりません」 「首に、こう、癖毛の、」 「・・・」 「・・・好きだ」 「わけわかりません」 「ほくろ」 「はいはい」 首元、指摘された癖毛、 随分前からの長めの髪型の、 首に纏わりつく茶髪。 それがちくちくと、存在感。 「あー」 「・・・」 「むかつく」 (首が気になる・・・) 「何が」 「てめぇに振り回される俺」 「・・・」 黙った十文字が苦笑。 「何笑ったよ、今何笑った?」 「・・・振り回せてんのか、俺はおまえを」 「・・・うん、まぁ、うん」 「そうか」 「何、何ですかその半笑い」 「三宅」 「はい」 改まった声、低い声。 「これからも膝に乗れよ」 「え」 「・・・な」 「・・・ははは」 「乗れ」 「う・・・」 「乗・・・って、くれたら、喜ぶ」 「誰が」 「俺が」 「うん」 圧力と圧力と圧力と情けなさで、俺を振り回してばかりの、 十文字は頬を染める。(あー、客観的な俺が凄く寒いって言ってるよこの図) 「十文字顔赤ぇ」 「・・・おう」 (もうだめだ、俺はもうだめだ) 「あー」 「?」 「その、何、何だろ、可愛く見える、おまえの赤い顔、もう戻れねー」 「?」 「・・・好きだ」 「三宅?」 「うざいけど、きもいけど、 おまえの赤い顔、好きだ」 「・・・二言余計だな」 「ああ、もう嫌、きもい、何この告白合戦」 「・・・おう」 「大好きだ十文字!」 「三宅・・・」 「ああ、きもいよきもいよきもいよ俺何言っちゃってんの」 「きもくねぇ」 (目、きらきらさせないで) 「きもくねぇ」 (力強いよ、声力強過ぎる・・・!) 「きもいって、絶対きもいよ俺たち!」 「きもくねぇ」 「・・・きもくねぇの?」 「きもくねぇ」 「きもいよ!!」 逆ギレする俺の耳は、熱すぎて赤かった。 (もうダメだ、戻れない俺は完全なホモップルの片割れで、 幸福だ・・・!)
END
| |
|
Saturday, 04, Aug | トラックバック(0) | コメント(0) | ●三宅受け | 管理
|
この記事へのコメント投稿はできない設定になっています |