『王家の沈黙』(雲ベル) 42000hitキリリク※R16 |
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| 「来たね」 「来たけど・・・」
「遅いよ」 「・・・」
学校の応接室なんていう、普通生徒がいるべきではない場所で、 踏ん反り返っている雲雀を、ベルフェゴールは見つめた。 秋晴れだったが、遠くに浮かぶ濁った雲のおかげで何だか、 ぎこちない空が窓の外に見えた。
「返せよ・・・」
呟いてみたが無視される。 この調子で二週ほど、ティアラとは面会さえさせてもらっていない。 「ホント、いいかげんに・・・」 「今日はね、屋上に行こう、風が気持ちいいんだよ」 「・・・返せ」 食い違う会話。 「ねぇ」 「・・・」 悠然と諭すように、雲雀が声を掛けた。 「砕かれたいの?」 「・・・」 何をと、問うまでもなくベルフェゴールは顔を歪ませる。 それでも、憎しみや怒りが湧かないのは、 ティアラへの執着がそれほどでもないとか、 雲雀という人間に対する情とか愛とかがこっそりとあるとか、 そういうわけではなくて、 「・・・」 「ほら、行くよ」 ぎゅっと、掴まれた手を見て意外にも熱かった温度。 対人に関してどう見ても、あまり器用そうでないのに、 何故こうも躊躇いなくこちらに絡んで来るのか。 「何考えてんの、おまえ」 「それはこっちのセリフ」 「は?」 「・・・不愉快で不可解で、どうしても、僕は君が理解できない」 「わけわかんねぇ」 呟くと斜め上に見える雲雀の顔に、 困ったような苦々しそうな、苛つきの表情が浮かんだ。 横顔で、しかも角度が角度だから、 見えたと思えた瞬間、その顔はすぐに首の動きで、 向こう側に向けられてしまった。 「あ・・・」 屋上に着き声を上げたベルフェゴールと舌打った雲雀の、 目の前に煙を吹かせて、気だるげにしている獄寺の姿。 向こうも、こちらを見て思い切り顔を顰める。 「何だよおまえサボリっ?不良じゃん!! タバコとか!!定番すぎ!マジうける!」 雲雀の、手を解き獄寺の元に、 掛けていくベルフェゴールは楽しげだった。 「何でいんだよおまえ、うちの生徒じゃねぇだろ」 「うしし・・・っ!」 何を思ったのか、にんまりと笑みを浮かべているベルフェゴールの顔に、 獄寺は煙を吐き出す。 「!!」 「ガキの来るとこじゃねぇんだよ」 「~っ」 年上とも、年下とも知らない癖に、 獄寺はベルフェゴールを子どものように扱う。 「っぅ、最悪っ、ぅえ!」 煙に囲まれてむせるベルフェゴールを、 雲雀は持ち上げ不機嫌そうな、顔で獄寺を睨む。 「・・・」 猫のように運ばれていくベルフェゴールを見ながら、 そういえばと、 雲雀との組み合わせは奇妙ではないかと獄寺は思った。 「当て付け?」 「ん?」 階段の、踊り場に来て低い声で問われてベルフェゴールは首を傾げる。 「・・・、せっかく・・・」 そこまで言い雲雀はベルフェゴールの肩を、 掴み顔を近づける。 「・・・」 ちゅ、と音が響き、 思えば始めて、キスをされたのも階段だったと、 ベルフェゴールは思う。 松葉杖がまだ必要な時でよろよろと、 一人この学校の階段を降りようとしていて、 (何をしに来てたんだっけ) そこで向こう側から、登ってきた雲雀に手を貸してもらい、 例によって例のごとく、 「御礼なんて言わないよ、だって俺王子だもん」 なんて宣言してそのまま口を塞がれた。 「・・・言わないならもらうまでだ」 言い捨て、去って行った背が颯爽としていて、 何だか悔しかった。
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Thursday, 01, Mar | トラックバック(0) | コメント(0) | ●他 | 管理
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