『スノーマン』(キッド×狼谷) |
|
| 彼は騙されやすい。あんまりにも騙されやすい。 調子に乗りやすい。よく笑う。よく笑って、よく笑う。
総合してこちらの胸はいつもきゅっと締め付けられるばかりだ。
「えッ?!マジで雪達磨動かねぇと思ってんの?!」 「あー、うん、一応ね」 「馬っ鹿だなぁ、常識に囚われんなよ! ま、俺も、見たことあるわけじゃねぇけど!でも、ほら、あの、 本とか、ばあちゃんの話とかじゃ人間に隠れて動くそうだし、って、 思ってたんだけど!」 「いやー、でも、無理じゃないかなぁ、どう考えても」 「おまえ、マジかよ?マジでスノーマン否定すんの?建前でなく?」 どうしようこの子、本気だなぁこの子。 「まぁ、でも、中学んくらいから、動く雪達磨探し、皆しなくなったしな、 うん、そっか、そーなんかなー、無理か」 寂しそうに雪の、まだ柔らかな場所を踏み踏みしている。 彼の、実家北海道は雪だらけだ。 「それより、手、いい?」 「ん?」 悴んで赤いので、しゃがみ込んでそれを頬に当て、暖める。 「うわ!」 「冷たくなってるよ、痛くないの?」 「ない!」 「・・・」 「キ・・・ド、ハズいッ、も、いいって!」 きょろきょろ、辺りを見て喚く。覗いた八重歯が愛しい。 「こんな指、氷みたいにして、とれちゃうよ、ぽろって」 「え?!」 「壊死って知ってる?本当にとれちゃうんだよ、指、 言われなかった?ご両親に手袋しなさいってさ」 「言われた、けど、ハハッ!おおげさ!そんな壊死って・・・」 「・・・」 黙って見つめているとみるみる変わる顔色。 「え?!マジ?!」 「マジ」 面白いので押し通す。 「嘘、でも、今まで取れたことねーし・・・!」 「年と共に取れやすくなるんだよ」 「・・・ッ」 ついでに尤もらしさで飾る。 すると、何を思ったのか彼の手を温めているこちらの頬に顔を近づけ、 はぁー、と呼気を吹きかける。 どうやら、こちらの頬で暖めているに加え、 自分でも暖める努力をしようとしたらしいが、 俺にして見れば顔に息を吹きかけられているわけで、 というか、暇さえあればあらぬ妄想をしてしまうほど好いている人の、 顔が間近に迫っているわけで、 ここが彼の家の裏庭とも忘れ、 彼の腰を抱き込めてしまった。 「大好き」 耳元で呟くとびくりと彼の肩が震えた。 「おう」 恰好を付けようと(何故か)したのか彼の声は低い。 「おまえの気持ちはわかってる、 だが今は俺の手が取れるか取れないかの瀬戸際だ、 悪いけど協力して暖めてくれる? 手、取れたらボール握ってらんねぇし!」 それはそれは、真剣に俺の嘘を信じているようだった。 「ぷっ」 「いや笑いごとじゃねぇから!」 あくせく、両手を擦る顔は必死で、 どうすればいいのだろう胸が熱い。 「可愛い、なぁ、本当」 「はー?かっこいいのまちがいだろ?」 「うん、まーね」 「ううッ、くそッ、手袋明日絶対買いに行く」 「あのさ、一ついい?」 「なんだよー」 「手、取れるとか嘘、ごめんね」 そんなに簡単には取れない、というだけだが、 俺の用心癖を彼に押し付けるのも悪い。 「・・・」 間を置いて、彼は、盛大に笑った。 「ハハッ!!何だよ凄ぇビビった俺馬鹿みてー!」 怒るかと思ったが今日の彼は機嫌が良かった。 「ったくもー、嘘付くな!舌引っこ抜かれるぞ!」 (ああ、閻魔様にでしょうか) 「あ、ってかもしかして雪達磨が動かねーってのも嘘だろ?! スノーマンが作り話っても嘘だな?!」 「・・・あー、・・・うん」 「やっぱり!! この俺を騙そうなんて百万年早ぇーんだよ! ハハッ!!」 彼が楽しそうなので俺も楽しい。 そうしてこれから家に戻った時、 お泊りご招待をしてくれた彼へのお礼で、 買っておいた手袋のプレゼントに、 彼は喜んでくれるだろうか。
END
| |
|
Thursday, 01, Mar | トラックバック(0) | コメント(0) | ●狼谷受け | 管理
|
この記事へのコメント投稿はできない設定になっています |