『分裂』(兄ベル) ※R16、流血 |
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「おやぁ?そこにいるのは毛ジラミ君じゃないの」 「・・・」 「何?用?入れば?」 「・・・」 向き合うと鏡を、見ているような錯覚。 幼少、白い服を好んだベルを僕は毛ジラミと呼んで、 黒い服を好んだ僕をベルはゴキブリと呼んだ。
部屋の出入り口で棒立ち。
湿っぽい空気を纏っているベルの肩を、 小さく笑みを浮かべて、黙って抱き込み温かな場に招く。 口を開けばいつも、罵るしかしない関係。 なのにふいに弱みを、晒し合ってしまう関係。 血で繋がった心と、身体の矛盾。 「何か飲む?コーラ?あの安っぽい感がたまんないよね、 うん、コーラにしよう」 僕の好みはベルの好み。ベルが何を求めるかは僕が何を求めるか。 そのことに絶対の自信と、揺ぎ無い真実があった。それでも、不安。 最近になって、抱え出した悩みの種が、果たしてベルにもあるのか。 「ベル?」 「カサコソうるさいゴキブリ」 「元気じゃん思ったより?」 ナイフを片手に笑顔。 投げ合いが始まるかと思ったが、 疲れたようにこちらを、一瞥し溜め息をついたベルによって、 その場が収まる。 「・・・」 沈黙、 「カサコソカサコソ」 「頭沸いたの?」 「せっかくノってあげたのに」 耐えかねて茶化したがベルの顔に笑みは生まれなかった。 「ゴキブリは黙ってそこら辺で触角動かしてればいいの、 無駄に音立てて自己主張激しいと踏み潰されるよ」 「誰に?」 「誰かに」 「あは、僕を踏み潰せる人間がいたら会ってみたいね」 「兄さん」 「ん?」 「あのさ、何で?」 「は?」 続く「何のこと?」を言わずに空気で伝える。 「俺のこと避けてるよね」 「・・・」 「何で、本気で、嫌になった?とか? ねぇ、俺、嫌われてるの?本気で?」 「可愛いこと言うじゃん」 「ふざけないでよ、この前、突き飛ばしたじゃん俺のこと、 口ではさ、いいよ、仲悪くても、でも・・・」 「キモ」 「ッ」 「何?ベル?僕と仲良くしたいの? 口ではって、僕は本気でベルが大っ嫌いだよ、 何勘違いしてんの?」 「お・・・っ、俺だって大嫌いだよッ!!兄さんなんかッ、 く・・・口ではって言うか、嫌いだよ!本気で!俺も!」 「でしょ?」 「・・・ッ」
あー・・・
「・・・」 「ベルー?」 ぽろぽろぽろ、やばいやばい見てたらこれ悲しくなるんだよね、 何でだろうね、やっぱり繋がってるのかな。 「・・・っふ、・・」 「ベル・・・」 背を擦ってやって、頬の涙を舌で拭う。 ベルの、 言いたいことはわかる。 つまり、 こういうことだった。 いつも、 険悪にしている仲は、ふとして本当に必要な時だけ、 強い結びつきに変わる。 それを、互いに弱みにしていた。
絶対の居場所。
嗚咽で揺れるベルの、頭部を胸に押し付け、 抱きしめる。 そうして、落ち着いたベルが安心したような、 顔でこちらを向いて、 「ッ!!」 見てしまった唯一の違い、僕の色では無いその、 瞳から目を逸らす。 そこで一度始まったそれが、 今度は腕の中の温度に神経を向けてしまって、 泥沼。 突き飛ばし叫んで逃げ出す。 壁に背を付けて胸に手を当てて、 ああ爆発しそうだ。 ベルは、 呆然として僕を見ている。 「・・・兄さん?」 「ベルッ」 「何・・・で・・・?」 「出てけ、 出てけよ、早く、 殺すよ?」 「兄さんッ、どうしちゃったんだよ、何でっ・・・」 溢れ出した涙、悲しげな眉、薄着の、 身体の形。 同じのはずの形が、 バスルームの鏡に、いつも映る己のものとは、 恐ろしく違って見える。 乱暴で切羽の詰まった、 支配と興味が疼く。 「出て行けッ」 ナイフを投げた。 「毛ジラミのくせに、生きてること自体生意気、 存在を悔い改めてよ、ねぇ? 僕が、切り刻んであげる、あはっ」 定例の罵倒、無理矢理に日常を、戻そうとした声が震える。 「兄さん、待って、今日は」 「出ていけッ!僕の視界に入るなッ、寄生虫!」 「ッ」 「?!」 当然、避けられるものと思った、 それをベルは避けなかった。 腿にぶすりと、刺さったナイフ。 ズキリと、 同じ場所が痛んだ気がする。 「ベ・・・ル?」 「・・・っ」 「何、何で、馬鹿、 この馬鹿、 何で・・・っ」 駆け寄りナイフを抜き、 周りの服を裂き傷口を見る。 溢れる血を口で止める。 「んっ」 意識せず舌で強く舐め上げ、 その作業に夢中に、 なっていた耳に衝撃。 「ンぅ・・・あッ」 甘い響、妄想の中で、 膨らませたそれよりも格別に強烈で生々しい、 聞きたくて聞きたく無かった、声。 「兄、さ・・・ッ」 舌を動かすたび聞える、 声に胸を刺されながら、 下腹部に集まる血と思い知った望み。 「情けない声出すな」 「ア゛・・・っは、」 涙目、荒い息、汗。 どうしろと言うのか。 「ベル・・・」 「何、」 ぴちゃりと、血が音を立て唇。 重なった温度の限りない近さに眩暈。 普段いがみ合い、スキンシップとしても、 したことの無い僕らの、 それに、 ベルが目を見開く。
・・・驚いてるんだ、そっか、
なんて一人心中、 「やっぱ、・・・僕だけか」 呟いて泣きたくなった。 「兄さん?」 他、どんな、 意思も好みも何もかも、 共有できなくてもいいから、 この想いだけ一つ、 通じ合えればどんなにいいかと嘆く。 そうして、 生まれて初めての、 僕にしか分からない感情、 たった一人だけで抱える心を知って、
その孤独さに震えた。
END
※毛ジラミ ヒトジラミ科のシラミ。体長約1.5ミリ。 黄灰色で、カニに似た形。
白くないです。 すみません。 言葉のノリでうっかりです。
‘シラ’の辺りに騙されました。(言い掛かり) イラっとなった方いましたらスミマセン。
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Monday, 14, Aug | トラックバック(0) | コメント(0) | ●ヴァリアー | 管理
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