『音読』(ディノスク) ※『敵』続、R発言注意 |
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| 「うっぜー!」
叫ばれて慌てる。 「何でだぁ?!」 「だっておまっ・・・ ・・・ ・・・ガキかよ」 木陰、いつもの、その場所に放課後、 大事な鍛錬の時間を割いてわざわざ、 会いに来た俺にあんまりな言葉。 日陰の、 せいで金の髪が、 光らなくてそれが残念だと思いながら、 首を傾げる。 「・・・」
ドストエフスキー、
いつもそいつの読んでいた本は、 題名が変わっていて、 ただ、ドストエフスキーと言う著者の名だけが、 共通していた。 「ややっこしい名だぜぇ」 呟いて、少し、内容が気になり、 だから音読してくれと頼んだ。 「買えよ」 「金がもったいねぇだろうがぁ」 「じゃぁ借す」 「読んでる時間もったいねぇだろうがぁ」 「最悪だな」 「続きからでいい」 「・・・」 「読め」 「・・・」 「できれば面白くだぁ」 「・・・」
以上の流れで、叫ばれた。
いくらなんでも、真面目な顔で、 力一杯、「うっぜー!」は酷いと思う。 俺の繊細な心は深く傷つけられた。 「あのなぁ、何で、 どこの誰が、 ドストエフスキーを面白く読めるっつーんだよ」 「・・・」 そいつの責める声に誘われるように吹いた風が、 木の葉を揺すり落とした。 溜め息をついて、そいつは、俺の頬に手を添えた。、 例の、困ったような笑みを浮かべる。 「ホントおまえさぁ」 「・・・」 顔が、近づいてきて長い、 睫毛が額に当たる。 「馬鹿だな?」 「ああ゛?!」 「可愛いぜ、主に頭が」 「・・・ッ」 殴ろう、決意して拳を固める。 「好きだなぁ、 馬鹿」 囁かれふにゃりと、拳が崩れる。 よしよし、とでも言いそうに、 俺の後頭部をぽんぽんと叩くと、 そいつは目を瞑った。
俺が、世紀の大告白、敵になってくれよ発言をして以来、 ずっと通い詰めて何時の間にかずいぶんと、 打ち解けた関係になっていて、 そいつ以外が、今のような行動をすれば血が流れる。
キスと、言うものをしている自覚はあって、 何故それをしているのかはわからなかった。
「・・・ッ」 息が苦しくなりそいつの、胸を押すとすぐに、 開放される。それは、最初に、なんとなく重なり、 なんとなく舌が絡まり、 それから、何度か思い出したように、 するようになって今に至る。
「だからさ、鼻ですりゃいいだろ、息」 肩を荒く呼吸する俺に、 呆れたような声でそいつは言った。 「スクアーロ」 呼ばれると身が震える。 そいつの青に溢れる感情に、違和感。 奇妙で、むず痒くどこかおかしい。 滲む色は、 求めていたものとあまりに遠く、 滑稽だった。 「なぁ、セックスとか、興味ねぇ? したいんだけど、おまえと」 「・・・」
言葉を失う。
何かが可笑しい。
「駄目だ」 「ん?」 「セ・・ッ・・・く、は、駄目だ」 「ははっ、何だよ今のぼかし? もしかしてセックスって、 恥かしくて言えねぇわけ?」 睨むと、そいつは心底、楽しげに笑った。 「愛してぇんだよ、おまえを」 「・・・」 「嫌か?」 「・・・」 眉間に、深く皺を寄せる俺を、 言い聞かせるような声色。 俺の、靄のような気難しい何かを、 そいつはわかろうとしなかった。
殺されたいという感情は、 愛されたいという感情と、
酷く似ていてその、粘着質な感じが、
そっくりで、
どうしようもなかった。
続
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Saturday, 08, Jul | トラックバック(0) | コメント(0) | ●ヴァリアー | 管理
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