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『大馬鹿者の死』(スクベル) ※R16 甘注意


「スックア~ロ」

「ッ?!」

飛び上がり抱きつき頬擦り。
胸の辺りに押し付けられている頭の、旋毛を目を見開き眺める。

薄暗い部屋のテレビの、前の立ちテーブルで辺りに、
人気も無くふとすれば甘い時間の訪れそうな静けさだった。
小さな恋人の突然のスキンシップ。

「おまえさー」
「?」
「これ」
「あ?」
楽しげにこちらの髪先、を、摘み口元に運ぶ。
「長いね」
「ああ」
「さらさら」
「・・・」
「ねぇ、」
髪の端、引っ張られその、毛の元の頭皮がざわめく。
喜びと困惑で顔がひきつる。
「スク・・・」
ぱしりと、手を弾き睨むと一瞬口元がもごもごと苦しげに動き、
それからいつもの笑みが浮かぶ。
「何、怒ってんの?わけわかんないし、
 髪、ただ、キレイって思って、何て、
 だから・・・」
(だから何だ・・・)
「俺ら、その、あんなことしたりしてるし、
 まぁまぁ仲イイじゃん?」
(・・・まぁまぁどころじゃねぇぞ・・・俺の中では)
「だからさぁ・・・」
「あ゛ー?」
(だから何なんだ早く言え、わけわかんねぇのはおまえだろ)
「・・・」
「だから何だぁ゛」
「・・・何で、」
「あ゛?」
「何でいつもそんな機嫌悪いわけ?
 むかつくんだけど」
「・・・」
「死ね」
落下した雰囲気の温度が、辿り付いた先はひらすら、
険悪で戸惑う。

「ぅお゛・・・い」

「死ね」

辛辣な言葉を残し、去って行く背に後悔。
できれば幸福であって欲しいと、願う相手のせっかくの機嫌を損ねて、
できれば、触れていたいと思う身体から目を逸らす。
大馬鹿者の意地。

「くそっ」

追って、動き出した足が軽い。
ベルフェゴールの大概、いつも残す寂しげな道を塗りつぶすこの行為が、
こんなにも心地よく、気を晴らす効果を持っていることに気付き、
苦笑。

「ベル」

日当たりの良い踊り場。
使われていない豪奢な階段の端、壁に、
手を付きじっとしている後姿が痛々しく小さい。
「ベル」
再度呼ぶとはっとしてこちらを向いて、
ちらりと見えた瞳に涙。冷や汗。
「・・・」
言葉を失い見つめて後ろ頭を掻いた。
「何の用?・・・死ね」
「死ね言うな」
「おまえの顔見たくない、死ね」
「口癖になるぞやめろ」
「うるさい、死ね」
「悪かった」
「許さない、死ね」
「だからやめろ」
「もうキスしないで」
「・・・」
「セックスも、もうしたくない」
「・・・」
「顔見たくない、死ね」
「おい」
すっかり、仕舞われた瞳から感情が、
顔を出して頬を伝い落ちて行く様を、ぼんやりと見つめながら近寄る。
腕を掴むと振り解こうともがく。
「・・・何、放ッ、くそっ」
口を塞ぎ舌を入れる。
「んっ」
噛み切られても可笑しくない剣幕。
引き千切られる気配の力で、
掴まれている後ろ髪を無視して続ける。
「ふぅ、んぅ、・・・ッ」
苦しげな声と息と、水音が脳を揺らす。
「は・・・ッ、はぁッ、死ね、
 死ね、死ね、信じらんねぇ、
 勝手、最悪、何だよ、
 都合、良い時だけこんなッ、
 もう、やだ・・・」
首に吸い付くとびくりと、
揺れる身体のその先の痴態を知る、
指を止めた。
涙を流す頬を囲む。
覗くと瞳は見開いていて絶望している、
ように見えた。
「・・・」
拳の中に、収まる小さな頭の、
息がだんだんと整い、
先に進めようとしない、
ことに気付いたのかこちらを、
直と見つめてきた。
「・・・治す」
呟くと心底、わけのわからないという表情。
「勝手、だってとこを、治してやる、てめぇのために、
 俺の、何が勝手だぁ、
 教えろ、てめぇの怒りどころを、
 治す、治してやる、言え」
「・・・」
沈黙、奇妙なものを見る目で、見られ頭に血が上る。
「う゛ぉお゛い、
 てめぇ、この俺がこんなに譲歩してんだぁ、
 さっさと言えおらぁ゛、
 ゲロんねぇと進めるぞ先に゛ぃ?!」
「・・・死ね」
「あ゛?!」
「死ね、
 無理、
 絶対治んない、
 もう今の発言事態が無理ってこと照明しちゃったから、
 無理、
 おまえ、
 死ぬしかないよ、
 馬鹿」
「う゛ぉい・・・、ッぐ!」
後ろ、掴ませたままのそれに、
突然力が加わる。
ぶちぶちと、
音がして引き抜かれた痛みに顔を顰めた。
「何、」
しやがると言おうとしてこちらを、
悪魔的に見上げる顔に、
何だか悩殺され黙る。
「でも」
「あ?」
「大馬鹿じゃ無くなった分マシかもね」
「・・・」
「髪」
「あ゛?」
「さらさら」
「・・・」
「キレイで、おまえの、髪、すき」
「・・・」
「おまえから、
 生えてるからすきだったんだけどね、
 もうこれは駄目だね」
言って、ぱらりと落とされたそれを、
見て思う。


大馬鹿者の死。




END



Saturday, 12, Aug | トラックバック(0) | コメント(0) | ●ヴァリアー | 管理

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