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『次』(キッド×狼谷) ※ウルブス戦ネタバレ

「何おまえ、何その顔、何言いに来たんだよ!
 笑いに来たのか?!
 笑いに来たんだな?!」
「あー」
「やめろその生温い笑み! 
 むかつくっ!」
ぎゃぁぎゃぁと吠える彼の、
狼谷という苗字をこっそり犬谷に脳内で変換。
静かで、冷たいドームの通路で彼は一人で、
敗北の悲しみを、共有するチームメイトもつれず、
蹲り苛々と靴を磨いていた。
「笑えよ」
小さな声が聞えて、
「さっさと笑えー!」
怒鳴る顔は動物の威嚇のようで、
何とも言えない庇護的な気分にさせる。
「まぁー・・・」
語尾を延ばし言葉を選ぶ。
「その、少し落ち着いてくんねぇかなぁ」
「落ち・・・っ着いてなんかいられるかよ!
 負け、俺、負けたんだぞ?!
 嘘みてぇ、ありえねぇ!
 あーりーえーねぇーッ!!」
だから何故そうもすぐに喚くのか。
「・・・」
「爆笑だろ?!
 ははッ!!
 瞬殺してやろって思ったら、
 瞬殺されちゃってんの逆に!
 馬鹿みてぇ馬鹿みてぇかっこわりぃ最悪!
 爆笑しろよ!
 爆笑だろ?!」
「だから落ち着いてちょうだいよ」
「・・・っ」
「俺はね、ただ、
 君と話をしたくてね」
「・・・話?」
「そう、アメフトとは、
 関係の無いお話、
 ・・・ね?」
「・・・」
不審気にじろりと睨まれ、
苦笑い。
「連絡先教えて」
「はぁ?!」

勝気で生意気で、まるで世間知らずな、
それでもからりとしたプライドと、
ガキ大将のようなカリスマ性を持つ彼に、

俺とは、まるで正反対の彼に、


「恥かしい話、なんだけれど、
 君に、個人的に、
 凄く、興味が湧いてしまって、
 気味悪いだろうなぁ、
 ごめんなぁ、でも、
 良かったら、
 またこうやって話を、
 できればいいなぁと・・・」
「・・・」


湧いたのは嫌悪でなく興味、
友情でなく愛情。
珍しく言い切れた心内の、
決定的に惹き付けられた力。
不思議な生き物。


黙って、下を向いている彼の頭に、
そっと手を乗せてみた。

「っ」

ぴくりと身を震わせ、けれど叩き落すわけでも、
振りほどくわけでもない。

撫でたりしたら怒られるだろうか?

伺ったが表情は見えず、
靴を磨く手は止まっている。


「あのさ」

「ん?」

「俺ね、今凄い落ち込んじゃってるわけ、
 挫折なんて、俺には、
 一生縁無いって、信じちゃってたからさ、
 凄くね、
 悔しいし苦しいわけ、
 そういう時に、
 なんか優しげにさ、
 頭に手とか置かれちゃったりすると、
 その、あのさ・・・」

息の、詰まるような湿り気が漂う声は、
相当にこちらの、胸を締め付ける。

「・・・っふ、不、可抗力だからッ、これは・・・、俺・・・っ」

ぼろぼろと涙。くぐもった嗚咽で、肩を揺らし泣き出した彼を、
見つめながらヒヤリとしたのはどツボに、
嵌りそうな己の心の、
危険を知らせる鼓動だった。
「・・・ぁ、あぁあ、ぅぐ、・・・っふ、フーッ」
しゃがみ込み身を寄せると、彼はこちらの胸の中に、
縋り付いて泣き出し、
「ぅーッ、・・・っふ、ぁあ、ぅ、うー・・・」
泣き声までもやはり、動物のようで、
顔は涙でぐしゃぐしゃに歪んでいた。
「おまっ、・・・っ、
 おまえらの、こと、ぜって、忘れねぇから、次会ったら、
 勝つ、からっ・・・」
その背に手を当てるだけで、
どうにか踏みとどまっている俺に、
彼はどうにか嗚咽を避けて、
宣言をして来た。
「勝つ、次は、ぜって、勝つ・・・っ」
「うん・・・」
ぽんぽんと、当てている手で背を叩くと、
余計に泣き出したその身体を、
本格的に愛しいと思う。
「あのね、」
言うべきかどうか悩み、けれど嗚咽でぴくんぴくんと、
動く胸の中の存在に思考は乱され、
何かが暴走していた。
「次、っていうの、たぶんもっと君が思ってるより、
 早く来ると思うんだよね、次、試合する時ならともかく、
 次会う時って言うのはね、なぜなら、
 俺がたくさん訪ねにいくから、だから、
 次会ったらじゃなくて次試合したらに言い直してね、
 あ、言い直さなくてもいいけど訂正ってことで」
「?」

心底、動揺した顔で、上目遣いの彼に、戸惑いつつ、
そのくせ変に確信めいたものを感じていて、

「好きになってしまったんだよ、俺は、君が、
 ごめんね、本当に踏んだり蹴ったりだね、
 気味が悪いかもしれないが、本当に、
 心底惚れてしまったんだ、だから、会いに行くと思うんだよね、
 いいかな?」
「・・・いいけど、それマジで言ってる?」
「大マジ」

呆気に、取られている彼に苦笑いを送り、
そっと立ち上がり背を向ける。

彼の自慢の靴の傍に、そっとこちらの連絡先の、
書いてある紙を置いて、
あわよくば彼から、彼の連絡先を伝えられることを期待して、
期待なんてするのは性じゃないけれど、
それでもやはり期待してしまう。

「・・・らしくないなぁ」

無条件の、自信なんて力は、俺にはなくて、
彼の、零れた涙からもしかしたら、
得たのかもしれない軽い軽い傲慢さだった。


END



Saturday, 10, Mar | トラックバック(0) | コメント(0) | ●狼谷受け | 管理

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