『肉』(ディノスク)―1 ※『音読』続・R16 |
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| 辿り着いては行けないと、 思っていて実はそこを、
初めから目指していたようである己を、 どうすれば否定できるのか・・・。
そいつは、わかろうとしなかったのではなく、 まるでわかろうとしなかったように、 見えたということだったわけで、その、 甘いセリフの計画する流れは、
俺に俺を誤魔化す術を与えてくれるはずだった。
わかっていたとすればあまりに優しく、 腹の立つフォローだった。
今考えると素直に、 その言葉を受け取っていれば俺は、
俺の内の醜さと薄情さを、汚さを、 知らずに済んだかもしれない、
「ここじゃやっぱ危険だよなぁ」 「・・・あぁ」 「となると、どっちかの・・・、んー」 曇り空、夕暮れ、校舎裏の狭い日陰の、 木の下が酷く心地悪く、寂しげな場所になった。
セックスの相談をする敵同士の、まして同性の俺たちの、 不毛さに吐き気と嫌悪。互いの声が自然すぎて苦しかった。
「スクアーロ?」 「・・・なんだぁ゛」 「どした?」 「・・・っ」 「強張ってる、顔、 ・・・緊張してんのかよ」 「まぁなぁ゛」 「・・・」 くすりと、笑って青がキラキラと輝く。 その、求めていたものとはちがう煌きにこっそりと、 後ろめたさを感じている俺を、 どうすればいいのか。
報告すればいいのか。
この奇妙に、
歪んだ想いの、薄々、 わかって来た醜く汚い、
正体をさらしたらどうなる?
「なぁ」
掛けられた声に返事ができず、 たぶん苦しげな表情を、 見せてしまったのだと思う。
ふいに、青の目から光りが消えた。
笑みも嘘のように、跡形もなく隠れ、 そこに突然、
求めて止まなかった冷たさが滲み出てきた。
それはあまりに突然で俺が、
動揺するには充分なタイミングで、
「バレてる?」 「あ゛?!」 「わかってる、だろ、おまえ」 「何がだぁ」 「俺の本音」 「・・・」 「やっぱ、最低かな?」 「・・・??」 「でも、おまえも、そうなんじゃねぇの? 何か、わかりやすいっていうか、 そう見えるんだけど、こっちからは・・・ おまえも・・・」 「・・・」
長い、目と目の対峙に、 汗が噴出してまるでそれは死闘でも、 しているようで身体中、 巡る血が喜び喘いだ。
「身体目当てって奴な」
「・・・」
言葉に、されてはっとなる俺と例の、 困った顔を浮かべているそいつの、 目は無機質だった。
「ごめんな、 俺、おまえのことどーでもいいんだ、ホントは。 愛なんて嘘だ、 欠片も感じない・・・ ただ、繋がれればいい、 ああ、そうだな、 おまえのことどーでもいいって、 ちょっとちがうか、 何ていうか、 どうしてもやってみたいんだよおまえと、 そこはどーでもよくない、 身体が欲しいんだおまえの、 だから、 それは嘘じゃなくて、 でも、 それ以外はどーでもいい・・・、 上手く言えねぇけど、 まぁそんな感じ・・・」
「・・・俺もだ」
「・・・」
沈黙の中でそっと、頬を温かなものが伝った。 安心と昇華の役割を、 担ってこぼれる涙はするりと、 俺のその醜さを許して、 目の前の男をはっきりと、 見せてくれた。 肉欲の対象でしか無い青の色を・・・。
意志も想いも心も、
何もかもを無視しただ、
肉体だけが求めた。
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Saturday, 08, Jul | トラックバック(0) | コメント(0) | ●ヴァリアー | 管理
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