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『肉』(ディノスク)―2 ※『音読』続・R16

「汚ねぇなぁ゛、俺ら、最悪だ、
 おまえのこと、初めて見たときから、
 したくて、
 そう思ってる俺は、
 今まで俺が、
 勝手に信じてた俺とちげぇから、
 だから・・・
 でも、
 もういい」
「スクアーロ・・・」
金の髪に指を絡ませ、貪りついた。
いつも控えめに受けるだけだったキスを、
進んで求め、
そのまま押し倒される。

誇りと、信じてきた何か純粋なものが、
音を立て崩れて、
肉の中に粉として吸収されて行く。

「・・・っ」

息と、熱と汗と痛みが乱暴に押し寄せ、
唾液や精液の臭いが鼻をついて苦しい。
終われと、願いながら密かに幸福だった。
それでも、
体内のそいつを、今確かな交わりを、
意識すればすれほど熱が冷めて行った。
欲が満たされそいつに、
感じていたすべての興味と好意が、
失われていくのがわかった。

「終りだなぁ・・・」
「ああ」
「もうてめぇは用なしだぁ」
「そのセリフそのまま返す」
「馬鹿かぁ、俺が言うからカドたたねぇんだろ」
「何だよ、そりゃ女役はおまえだけど、
 用なしになって手も足も出せなくなるのは俺だろ、
 立場的におまえの方が上だし」
「また」
「ん?」
「ドストエフスキーを読むのか」
「・・・」
「今度俺も読んでみる」
「はは」

肉と肉が求め合い感情なんて初めからおまけで、
だからこそ名残惜しく、
そのくせ、俺もそいつも根が素直過ぎていたのだ。

一度の、交わりで満足した肉体に従い、
そいつとの付き合いは終った。
すぐに記憶は薄れ、互いに感情で作った恋人ができてあの日の、
思い出は本当に他愛無いものになった。


今、思うとそいつから名さえも、

聞いた覚えは無くて、



辿る記憶の向こう、会話はところどころ薄く掠れて、
あやふやに頭に響く。
放課後の、校舎裏なんていう常識はずれな場所で、
意志を越えた交わりをしてそれから、
しばらく座り込んで話をしていた。

「似てると思わねぇか」
「何が」
「殺しとセッ・・・が」
「まだ言うの恥ずいのかよ?」
「うるせぇ゛!!
 ともかく、
 聞けぇ、だから、似てるんだ」
「どこが?」
「肉を裂いて、中身を晒してやりたい、って、いう、
 相手の、身体を、壊してやりたいっていう、
 それと何か、似てる・・・、
 自分と、ちがう生き物に侵入する感覚。
 強ければ強いほど、
 困難であればあるほど、
 屈服させて肉体を、
 崩してやった時の、心地よさが似てる。
 俺はなぁ・・・好みの女とか、見るとまず、
 殺してぇと思うぞ、
 趣味悪ぃ自覚はある・・・性だ。
 まぁ、
 そういう意味で感じる時と、感じない時は、
 ・・・相手によってあるがなぁ」
「ほー?」
「おまえへの場合は、
 されたい方向で感じたんだそれが、
 だから気味が悪かった・・・。
 『敵』になれだとか色々、
 今思うと苦し紛れの、誤魔化しだったかもしれねぇなぁ、
 だとしたら情けねぇもんだ、
 最初はこの感覚が、何だかわかんなくてなぁ゛」
「はは」
「今になっちゃどーでもいいがなぁ」
「気持ちいぐらい興味失せちゃったよなぁお互い、
 俺たぶん今日おまえがどっかで死んでも泣けねぇだろうなぁ、
 悲しくても悲しいなぁで終わりそ」
「てめぇ・・・」
「そういう仲だろ、俺たち」
「・・・俺は、楽しかったぞぉおまえと、
 過ごした時間、それなりに」
「・・・そうか?」
「ああ」
「・・・んじゃ、また話し掛けてくれよ」
「気が向けばな」
「うわー、出たよ、
 あーあ、もう、こっちはとてもおまえみたいな大物、
 近づけねぇのわかってるくせに!」
「忙しいんだ俺は、てめぇとちがって」
「なーんか確実に縁切れそー」
「仕方ねぇ、身分差だぁ゛、
 悔しかったら強くなって目立て」
「へぇへぇ」
「今でもおまえは、まだ俺の敵だぁ」
「そりゃどうも」
「待ってるぞぉ、いつか、
 俺を殺しにこい」
「ああ」
「・・・ためらいなさそうだなぁてめぇは」
「そっちこそばっさり斬ってくれちゃいそうだけど?」
「当たり前だぁ、
 てめぇなんかもう用なしだからな」
「酷ぇの」
「お互い様だろ・・・」
立ち上がり草を払い、どろを叩く。
「ん」
「なんだぁ?」
「別れのキス」
「・・・」

その時のさらりと、渇いていた唇の感触。

蘇るわけもない味気の無いそれが、
俺たちの、その関係のすべてだった・・・。


思い返し悲しさで痛む心、



それは肉の支配の頃に、
置き去りになっている昔の、
興味と好意の名残で、


すぐに消えてなくなってしまった。






Saturday, 08, Jul | トラックバック(0) | コメント(0) | ●ヴァリアー | 管理

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