『互い』(ヤミグリ) |
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「おい」 「・・・」 「おい」 「・・・」
「おい」
「・・・うるせぇ」 無機質な部屋の中で座っているそいつに俺は背で持たれ掛かって、 あぐらのでかい足の上に尻を乗せて寛いでいた。 「グリムジョー」 うるせぇ、と今度は怒鳴ってやろうと振り返ってそこで、 「う 」 言いかけで鼻を摘まれ声が篭る。 「・・ぉぃ」 「ぶは、何だその声」 必死に顔を振り太い指から逃れる。 「っにすん・・・」 言って乗り出した額を、ビシリと弾かれじんと、 来た痛みが眉間に皺を寄せた。 「・・・痛ぇ」 呟くとそいつは片眉を挙げてこちらを見た。 「痛ぇか」 やたら真剣な顔だった。 その、 様子を伺うような目と鉢合う。 「?」 黙った瞳はじっとこちらを見ている。 「何、 」 考えてるんだと言おうとして顔を歪める。 むず痒さと慣れない何かの温度を感じて恐しくなった。 俺の腕を燃やしたあの炎の熱に似ている。 「・・・っ」 そいつは、考えていたのだ。 俺にしかわからないもろもろの苦しみ、 を、黙って考えていたのだ、 俺の顔を見ながら、・・・俺に断りも無く勝手に。 「・・・余計なこと考えてんじゃねぇぞ」 牽制のように唸って発した声は震えた。 そいつに気遣いだとか力添えだとか、 そんなものを望んだことは一度だってなかった。 大きく重量のある身体でいつも、 そこにいる存在感それだけで充分だった。 心配、そんな重苦しいものを押しつけられたくない。 そんなものを理由に繋げられた瞬間、 そいつの居心地の良い重量のある存在は、 単なる重みでしかなくなる。 ・・・ビュ、と空を切る音。 バシリと突然頬に打撃。 「っ・・・」 言葉がでない。 「痛ぇかよ」 「痛・・・っ・・・何すんだてめぇーっ」 激情に任せて殴る。 でかい顔は俺の拳をがんとして受け止め、 ぴくりとも動かなかった。 「~っ」 顔が蒸気し、急に何か、 気付いてはいけないことに気付いたような気がした。 (縋りつきたい) 目の前のがっしりと広い胸。 に、 溶け込んで、
埋まってしまいたい。
「好きにしろ」 「・・・っ」 呟かれた言葉に固まる。 それは待つだけの姿勢で、 一番、望んだものであったはずで、 安心と焦燥が溢れる。
本当は口うるさくかまわれたかったのかもしれない。 本当は気遣いと余計な世話が欲しかったのかもしれない。
そんなことは無いとプライドだけが否定し、 想いがまとまらない。 何を、したいのかされたいのかわからず、 ただただ苦しい。 「ヤミ・・・」 「俺も好きにする」 「っ」 力強く、覆い被さるように腕で囲まれ苦しい。 それは抱きしめるということだったけれどそれにしては力が強すぎた。 「ヤミてめ、放せ・・・っ、苦っ・・・」 「・・・」 何も言わず、黙って力一杯、 俺を捕らえて放さないそいつは、 何を考えてるのか。
何も考えてないのか。
「おい」 「・・・」 「おい」 「・・・」
「おい」
「・・・うるせぇ」
END
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Tuesday, 13, Jun | トラックバック(0) | コメント(0) | ●他CP | 管理
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