『関係』⑧ 破面高校生パラレル |
|
|
黙って、
脳内にイメージを作る。
考えたことも無かった事象を突然、
身近に思うことは大変な作業だった。
日本に、来てから10年平和な、
国の中で死は遠くテレビや、
新聞や噂にしか知らず、
まして、
殺されることなど考えもしない。
普通に、
生きていれば心配の無いことだと心の底で、
呟く自分の声に何度も邪魔されながら、
ようやく、
ウルキオラは夜道で突然、
ナイフを持つ男と遭遇する場面を浮かべた。
(怖い・・・)
進めた想像に鳥肌が立った。
そして、
周りを見て驚く。
泣くものの姿があった。
どうして、
皆がこれほど真剣にイメージの作業に、
徹しているのか疑問に思う。
すべては、
壇上に立つ彼がこちらに与えてくる空気。
圧するような、
真に迫る緊張をくれる彼をウルキオラは、
どこか人とちがう存在かと思った。
何かを、
超越しているように感じる。
「2分・・・
お疲れ様、皆、
今の瞬間を忘れないでおいて・・・
そうして、
もう一つイメージして欲しいことがあるから、
少し黙って自分を落ち着けさせて、
決して、
周りと口を利いてはいけない。
・・・イメージを定着させるんだ。
大切なことだよ」
シンと、
館内は静まり返って、
誰も、
いないような錯覚を感じた。
「一番、
大切な人間はいるかな?
もし、
いたらその人が・・・
いなかったら何か、
大事にしている物でも何でもいいから・・・
次は・・・
それが壊された瞬間を思ってごらん」
どんよりと心が曇る。
気分が悪く吐きそうだった。
それを、
この空気の中でイメージしたら絶対に、
心が苦しくなると予感し、
ウルキオラは辛かった。
どうして、
こんな目に会っているのかと思う。
彼の、
言葉を無視してしまおうかと何度か考え、
けれど、
「そろそろかな・・・
じゃぁ最後、
イメージしてごらん・・・
さっき、僕が言ったことを2分・・・
リアルに、
再現して思い描いて、
残された自分の心を思って、
そうして目を瞑って、
また感じてごらん」
黙り続ける周りの人間と同じく、
壇上から伝わってくる声に逆らうことなど、
ウルキオラにはできなかった。
「2分・・・」
藍染の声と共に、
館内のいたるところでカチリと・・・
何かが鳴りそこから、
シューシューと気体の流れる、
音が漏れ出し人ごみが揺れる。
何の音だと囁く声の中に、
藍染のどこか厳しい響を持った、
一声が割り込む。
「黙ってイメージを定着させて・・・
言葉を作るのも雑念を持つのも許さない。
集中して・・・目でも瞑っていなさい」
息が、
だんだんと苦しくなるのを感じた。
漂う、
空気に物理的な異物感を感じる。
脳の、奥が麻痺する感覚に恐ろしくなった。
それでも、
藍染の言いつけ通りにひたすら、
イメージを続ける。
瞑った目からは涙が零れた。
電気が、
ついてあるにも関わらず辺りが、
真っ暗になっている雰囲気があった。
目を、
開いたら自分が消えている予感さえした。
そこで、
突然ウルキオラの携帯が音を立てた。
透明な館内の沈黙に泥を塗って、
浮くように音が流れる。
(電源・・・っ!)
グリムジョーのメールにすぐに、
また連絡を入れるとあり電源をそのままにしていた。
(・・・っ・・・)
指先が震える。
冷や汗が全身から噴出す。
目を開けたくなかった。
音が流れ続ける・・・
プチリと・・・
音が潰され沈黙が戻る。
目を開け、
たくさんの後頭部を眺めた。
クラス委員であるウルキオラはいつも、
列の最後に並ぶ。
ふとして、後ろに気配を感じた。
「・・・ヤミー」
止めてくれたのだろうウルキオラの、
制服に隠れていた携帯を片手に用務員は、
怒った顔で心配そうな目をしていた。
「馬鹿野朗・・・」
「?」
そこで、視線をずらし絶句。
奇妙なものを見た驚きに痺れる。
丁度、
一人多い隣の最後尾の者が自然な形でウルキオラの、
視界に顔を覗かせていた。
その、黒目がぐるぐると虚ろに動いている・・・
異常な形相だった。
バタンと、
背後で音がし振り向く、
次々、
質量のある音を出し崩れていく人の波が怖いほど静かで、
気味が悪い・・・
誰も声を出さない・・・
(人が、倒れていっているというのになぜだ?)
周りを、
見回すと皆一様に、
同じ顔で無言に、
身体への衝撃を考えることなく重力にまかせて倒れる。
(何が・・・)
恐ろしくなり傍の用務員に縋る。
(何が起こってるんだ・・・)
| |
|
Monday, 10, Mar | トラックバック(0) | コメント(0) | ●高校生破面 | 管理
|
この記事へのコメント投稿はできない設定になっています |