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カテゴリーの『取扱について』を読んで下さい。
 



『関係』⑬(イルロイ+グリウル)





「どうするんだ?」

グリムジョーがたどり着いた時すでにそこに居た大柄な男が、

手をつけていないパフェを目の前にボソリと伺いを立ててきた。

「どうするもこうするも・・・」

舌打つ。

どこか、

様子のおかしい想い人が心配であると同時に、

事態が一向に改善されないもどかしさがあった。

「奴らは?」

「・・・あのままだ」

ファミレス・・・の、ボックス席に私服だが警官二人と、

制服姿の学生が夜中向かい合わせでじっとしている。

グリムジョーにとってはあまりいい思い出の無い光景だった。

大体、学園内で興した問題にはあまり関与してこなかった教師たちは、

外で何かをやらかし警察の世話になった時だけ厳しい罰を寄越した。

もし今問題となっている現実離れした学園の秘密が、

本当であればその対処にも理由がつく。



数分前、上司の方の警官に連絡が入り急遽、

目的地の変更が行われ24時間営業のこの場所にこもることになった。



聞き耳を立てていたグリムジョーは上司に、

連絡を寄越したのが藍染であると知った。

「・・・ああ、・・・そうだな。

 それを・・・証明できると言うなら文句無く二名を、

 お前に引渡すという条件を飲んでもまだ余りある功績だ。

 ・・・ああ、信じてやる。

 実現すれば私を含め多くの者が救われるだろう。

 ・・・可能性があるなら、・・・それを信じたい。

 だがもし今、上から二名の身柄の引渡し指示がでたら、

 私には手が無い、急げ」

何かの取引で二人の身柄は解放されるのだとその電話ではわかった。

それから他に、

学園にいる生徒のことを警官たちが『虚』と呼ぶこと、

『虚』は犯罪を犯す可能性のある者で過去、

記憶のどこかに犯罪の可能性のシミを作っている。

そのシミを‘消す’ために『虚』は、

特殊な毒ガスで‘処理’されなければならない。

‘処理’を受けた『虚』は死んだように眠る。

それを警察の専門用語で‘死体’と呼ぶ。

‘死体’になった『虚』は三日は目覚めないため街中で、

『虚』の‘処理’をすると後が面倒だということ。

そこで仕方なく二人は連行されているらしい。

それだけ、

なら平和的だと安心したのも束の間だった。

「90%、いやそれ以上の、おそらく100%の率で・・・」

苦いモノを飲み込むように警官は言葉を切った。

「・・・‘処理’を施されるとある記憶を失う。

 一番、大切な記憶。大切な者との記憶。

 あるいは大切なもの事態を。それに纏わるすべての記憶。

 ・・・を、すっぽりと持っていかれてしまう。

 シミの除去に巻き込まれて消えた記憶は二度と戻らない」

「・・・」

不安そうな顔をしたディ・ロイの頭上に、

イールフォルトが手を乗せる。

「その者と再会してもまた大切な者と認識し関係を作っても、

 過去にあったその者との思い出、

 巻き込まれた大切な記憶は何をしても戻らない」

「・・・」

「だが『虚』という運命から逃れるためにはその道しかない」

「・・・」

「過去の記憶と未来の安全、どちらを選ぶか」

「・・・」

「それを・・・」

イールフォルトが零す。

「俺たちに選ばせはしないのだろう?」

「・・・」

「銃を突きつけての連行、それが選択肢のある人権のある人間への、

 処置とは思えん」

「それは・・・」

「あまりにも遣り方が横暴で強引だ」

「黙れ」

「恋次・・・」

部下の警官が押し殺したような声を上げる。

「『虚』は、いつ『虚』として目覚めて犯行を行うかわかんねぇんだ。

 本当はもう見つけ次第すぐ‘処理’して、

 不安な種を‘消し’ちまいてぇんだよこっちは!

 それを、しないでいるんだ少しは感謝しろ!」

「・・・よほど『虚』が嫌いと見える」

「嫌いだ」

「親族でも殺されたのか」

「っ」

「イール!」

「・・・」

「ともかく」

上司の方の警官が咳払いをしその場を鎮める。

「おまえたちの運命は二つに一つだ。

 こちらの、本部からの連絡が先か藍染の使いが先か。

 どちらにせよ確かに、

 おまえたちが選択することはできない・・・残念だが。

 運に、まかせるしかないな」





・・・それから40分、

未だどちらからも連絡は無くグリムジョーは焦っていた。

警官たちの本部からの連絡の方が、

先に来たらどうしようかと落ち着かなかったのだ。

未来がどうだ過去がどうだという問題は、

グリムジョーにはどうでもいい些細なことのように感じた。

それは二人の問題で今グリムジョー自身は、

得体の知れない組織の中にさらわれて行こうとしている友人二人を、

助けたいとただそれだけを思っていた。

だから、

一先ず二人を自由にすることのできる藍染の使いの方が先に、

来ることを切実に願った。

早くと、何度心中で急かしたか知らない。

つい今しがた、その使いの役目を想い人が請け負ったことを知った。

(そういや・・・)

電話口の向こうの、トーンの落ちた声や不可解な発言が蘇る。

もう一度手洗い場に立つと再度電話をかけた。

「うい」

出たのは中年の男の声だった。


・・・


「誰だてめぇ」

知らず、声が低くなったのは仕方が無いと思った。







Sunday, 30, Mar | トラックバック(0) | コメント(0) | ●高校生破面 | 管理

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