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『規則』(グリウル)⑨ アンケート1位/高校生破面




「・・・昼」

用務員が呟いた。

「あいつ変だったんだ。

 俺が、浮かれてて気にかけてやれなかったから・・・

 弁当も忘れて走り出して、

 聞けば早退したって言うしよ・・・

 早退なんて、今までしたこともねぇんだよあいつ、

 何か・・・何が・・・っ、

 相談くらい、してくれたっていいじゃねぇか」

「・・・」

目が赤い上に少し、混乱状態で俺は、

成人した大人の男の切羽詰った顔なんてものを、

生まれてはじめて見た。

俺の、知っている大人の男たちは大抵、

腹の底の探りあいばかりする社会に属する、

わけのわからない奴等ばかりだった。

だから、人のために取り乱す大人の男の姿を、

俺は新鮮な気持ちで見つめた。



「・・・そんなに、信用がねぇのか!俺は・・・っ」



「山のおっちゃん・・・」

「どこ、行っちまったんだよ・・・っ」

悲痛な太く低いうめき声が響く。

心底心配をしているのがわかって、

嘘をつくのが心苦しかった。

「とにかく、もう一度寮の中調べて、

 あ、それからイールにも探すの手伝ってもらって、

 で、どうしても見つからなかったら警察に・・・」

言いかけてディ・ロイの目が俺のすぐ後ろを捉えて止まる。

「ヤミー」

振り向くとそこには、隠れているはずの優等生の姿。

「ウルッ・・・」

「ウルキオラ!!」

「ば、馬鹿!おまえ・・・」

慌てる俺を他所に、

まっすぐ進み出たウルキオラは、

虚をつかれたように呆けている用務員の、

さんざん探し回ったのであろう疲労した顔を見つめた。

「どうして、おまえは・・・」

少し、震えた声で呟き、用務員の腕に手を触れ、

下を向く。

そうして気が付くと俺たちは回りの、

住人の好奇の目に晒されていることに気づいて、

俺は慌てて用務員とウルキオラ、

それからディ・ロイとを部屋に入れてドアを閉めた。

ディ・ロイが、ベットに腰を掛けた以外に、

動きの無い人物配置で、

ただ、図体のでかい用務員のおかげで俺の部屋は、

急に狭い箱の中になったように思えた。

「探してくれなんて、頼んでないだろう・・・」

ウルキオラが呟く。

「ウル、山のおっちゃんは・・・」

言いかけたディ・ロイを制し、

俺はウルキオラの様子を伺った。

「おまえを、信用してないわけない、

 ただ・・・、仕方が無かったんだ、

 おまえが、来週、辞めるというから、

 それで、

 おまえが、いなくなるのが嫌で、

 俺は、だから、原因がおまえなんだから、

 言えるわけないだろう・・・」

「な、山のおっちゃん居なくなっちゃうの?」

「・・・」

改めて他人の口から、言われてまたその事実を受け止めて、

ウルキオラが小さく擦れた声で「そうだ」と、

ディ・ロイに答えながら涙を流した。

声が涙で濁り、咽喉が痛そうだった。

「ウルキオラ・・・」

「行くな!居なくなるな!

 寂しい、おまえが居ないと駄目なんだ・・・」

(うおっ、直球・・・)

駄々をこねるウルキオラの頭を、

用務員が撫でる。

「すまん・・・」

深く染みる言葉だった。

呟かれた声の温かみが、

俺までをも泣きそうにさせた。



Sunday, 19, Feb | トラックバック(0) | コメント(0) | ●グリウル | 管理

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