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『関係』①(イルロイ) 破面高校生パラレル


「おい」

そう多くは無いが何度か、

来た事のある木造の、

部活棟の地下。

新設の、

ボクシング部に与えられた小さな、

その練習場で6:30、

大会が近ければ9:00近くまで活動をしている。

「ディ・ロイ!」

呼んでみたところで、

返事は返ってこないだろうと、

何となく予想していた。

夜8:00過ぎの地下の、

冷たい壁に囲まれた練習場に、

人の気配はやはり無くて、

無駄足を運んだと悔いる。



「・・・くそがっ」

(俺は謝るつもりなど無いからな!)



週末、

寮は11:00までに門限を延ばす。

寮生が外の世界に足を踏み出すことを、

学園側は奨励していた。

外で学ぶ、世間を知ること、

バイトなどで金を創り遊ぶ者や、

就職口の下見に行く者。

・・・ディ・ロイは外に出たのかもしれない。

寮にも、

戻って来ていないというから、

そう思いすぐさま、

イールフォルトは寮に戻り両親の残した、

学生には少し余分にもなる財産の一部を持って、

外の世界に向かった。



バスを待つのが面倒で徒歩を選ぶ。

田舎道は虫の盛大な鳴き声で飾られ、

音に敏感なイールフォルトの耳には少しうるさく感じた。

気付くと民家の並ぶ砂利道に出て、

街灯を頼りに進む。

車のためだけのような道路にぶつかり、そこで、

運良く通ったタクシーを拾う。

ひとまず駅へ・・・

時間を、潰せる場は駅前の店が並ぶ通り。

そこぐらいだろうと決めつけ、

まっすぐ、

市の中央へ向かったイールフォルトの乗る、

タクシーが川の土手を横切った。

その、土手で何者かと乱闘をしていたディ・ロイが、

タクシーの中でしかめっ面をしている、

その麗しい顔を目撃して思わず手を止め、

殴られ倒れたことも知らずに。





「くそーっ」

「・・・」

「強ぇ・・・」

土手に倒れた状態でもぞもぞと丸くなり、

うめいたディ・ロイの言葉が、

わからないのかオレンジの髪の青年が隣の、

大柄な友人に伺いを立てる。

「ナンツッテンノコイツ?」

「・・・オマエノコトヲ強イトイッテイル」

「フーン・・・」

そこで、ディ・ロイは立ち上がると、

オレンジの髪の青年の手を取り笑う。

「アリガトウ、気ガ晴レタ」

「ンダヨ、日本語話センジャン!」

「ヘヘ、チョットネ」

「ツカ、喧嘩ジャナカッタノカヨ」

「アア、突然手合ワセヲシテクレト・・・」

「手合ワセ?」

「だってこのおっちゃん強そうだったし、

 俺凄いイライラしててさ、

 なんか、もうとにかくスッキリさせたくて・・・」

「アー、悪ィ、何、言ッテンノカ、ゼンッゼンワカンネ!」

「・・・」

「で、おまえはいったい何なんだ?」

「え・・・」

「見たところ日本人では無いみたいだ」

「あー、うん、俺、その、ちょっと迷子」

「迷子?」

「迷子、ね、おっちゃん、

 これも何かの縁だと思ってお願い、

 駅の方まで連れてってくんない?

 そっからバスで帰るからさ、

 あ、バス代もついでに借りていい?」

「・・・」

「ナンツッテンダ?」

「・・・金ヲ貸セト・・・」

「ハ?」

「俺は別にかまわないが・・・イチゴ、家ニ戻ラナクテ良イノカ?」

「オオ?」

イチゴと呼ばれた青年は片手にぶら下げたコンビニの袋を、

はっとしたような顔で見つめる。

「悪イチャド、ジャ、俺ハコレデ・・・!!」

「アア、巻キ添エヲ食ワセテ悪カッタ」

「イヤ、俺コソ何カ勘違イシチマッテ・・・」

「・・・気ニスルナ、気ヲ付ケテ帰レ」

「オオ、ジャナ!」





去り行く、オレンジの頭と同じ、

オレンジの光を放つ街頭。

土手の横を流れる川に、

かかった橋に一つぽつりと、

ある灯りがディ・ロイの頬を照らす。

「で、俺との手合わせはいいのか?」

「お?あ、ああ、もうスッキリしたから」

「・・・」

数分前、

珍しくディ・ロイは怒りに支配されていた。

土手に一人佇んでいた屈強そうな男を見つけ、

相手をしてくれと不意打ちのように頼み込んだ。

苛つきが抑えられず、

もし、相手が喧嘩と取ってもかまわず襲い掛かる気でいた。

拳を勢いよく振りかざす、

それは、屈強な男の数cm前で止まった。

何が起こったのかと思うと、気付けば、

オレンジ髪の青年に手首を捕まれ、止められていたのだ。

そのまま、その青年と乱闘になり今に至る。

「あいつ、友達?」

「・・・ああ」

「ふーん」

土手の、

ぼこぼことした斜面を登る。

「ディ・ロイ」

「?」

「俺の名前、おっちゃんは何て言うの?」

「チャド」

「チャドかぁ、うん、おっちゃんチャドって感じ」

「・・・どんな感じだそれは」

「チャ、っていうのにドって来てちょっと強そうみたいな」

「・・・そうか」

途方もない会話をしつつ、二人は舗装された道を進む。

商店買いの手前、

民家が減り寂れた工場やあまり流行らない店々が並ぶ道に出て突然、

「ひぎゃっ」

ディ・ロイが濁音の混じる悲鳴を上げた。



Tuesday, 04, Mar | トラックバック(0) | コメント(0) | ●高校生破面 | 管理

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