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『規則』②(グリウル→ヤミ) アンケート1位/高校生破面

「おい」と、

後ろから掛けられた声を振りほどいて、

向かった先はトイレ、

個室、

そこしか一人になれるところなど浮かばず、

ガチャンと、

喧しい音をドアが、

立てたのと同時にチャイム、

屋上に残された奴は、

俺が突然走り出した理由を、

授業に結び付けて笑って、

「優等生め」などと、

呟いているかもしれない。

「ふっ・・・」

漏れ出た泣き声は咽喉奥で詰まって苦い。

止まらない涙をトイレットペーパーで抑えて、

(惨めだ・・・)

走ってあの場を去ったことに、

授業のせいなんて理由を付けられたくなかった。

涙を、

見せてやれば良かったと後悔、

困らせて、

やれば良かったと後悔、

あの男を、

俺のことで悩ませてやりたかった、

泣いた、理由がわからなくてもきっと、

泣いたという事実だけで奴は悩んでくれる。

俺の、

支配する部分を奴の、

中に作りたかった。

できれば、

もっと早くに何か、

すれば良かったと後悔。



今更、

好きだなどと言ったら俺は、

奴にとって厄介でしかない存在に成り下がる。

それでも、

いいと思う自分が怖い。



いっそのこと迫ってやろうか。



そんな、

大それたことを計画しつつも、

実行する気などさらさらなくて、

どうせまたあの男の前に出たら、

残念そうな顔とか、

あやす様に投げられる声とかに折れて、

式への出席など約束してその日、

またこうして一人泣く派目になるかもしれない。

胸に、

刺さった刃物は相変わらず刺さったまま、

律儀に痛みを伝える。

今すぐ、屋上に行けばまだ奴はいて、

俺が現れたら驚いた顔をし、

「おうどうした」なんて声を掛けてくるのだろう。

動作の、

一つ一つを覚えている。

少し、荒っぽい作業をする用務員の、

屋上で開かれていた小さな弁当の中に、

たまたま残した学食を恵んでやって、

返って来たからりと、いう笑いの顔に惹かれて、

すべてを受け入れるようなその大男の、

対人の姿勢に惹かれて、

元来、面倒見がいいのだろうその性格に、

甘えた。

敬語も礼儀も、

目上であるはずのものに向けるすべての気遣いを捨てて、

ありのままを曝け出し我侭を言った。

すべてを、受け入れてくれるような気がして、

何もかも包んでくれるようなその、

大きな身体と心を愛しく思った。

力強く、

硬く太い腕が好きだった。

そんな自分の思いを改めて自覚しまた、

涙が溢れ、

何も、

今そんなことを想わなくても良かっただろうと、

後悔しながらもう一度泣いて、

そのまま、学校霊にでもなったような気分で、

授業中の静かな廊下を通り、

下駄箱にたどり着く。

無断の早退。

まさかの規則違反だった。

それを、

平然と行う自分がいること、

それが少し信じられなかった。

ただ、この、

ひらすらに切ない建物から出られることだけを、

素直に喜んでいるこの人間は誰か、

そこで、はっと息を呑んだ。

思いがけず先客がいたのだ。

慌てて、

涙を拭き様子を伺う。

見覚えのある人影、先日の不良だ。

だらしない着方をしている制服や、

派手な色の頭が嫌な思い出を無理矢理、

記憶から引きずり出す。

あれから、日本円が憎くなったなんて、

この目の前の男は知らないだろう。

めったに、他人と接さないこちらとちがい、

向こうはほんの日常のような些細さで、

俺の落書きを褒め俺に抱きついてきたのだろう。

その時の、妙なぬくもりを覚えている身体に鳥肌が立った。

慣れない、ことはするものじゃないと思う。

顔を、

合わせまいと向こうが出て行くのを影で待っていたが、

思ったよりも動きが鈍くのろい不良の、

やたら時間のかかる靴の履き替えにじれて、

出て行ったらやはり、

「さぼりかよ」

声を掛けられしかも、

「・・・」

こちらのそれを指摘されてしまった。

「悪いか」

開き直ると奴は小さく笑って、

「悪くねーよ俺も、昔よくやった」

などと言って笑う。

(・・・一緒にするな)

笑顔が、弱々しく見えたのはなぜか。

「つーか優等生様がさぼりなんて、何か理由でもあんのか?」

「別に」

「話して見ろよ、落書きの仲だろ?」

「どんな仲だ・・・」

「はは、だからつま・・・」

そこで、

途切れた声を不思議に思い目を向けると、

「おい!」

不良がぐらつき今にも、崩れようとしていた。

ずるりと、

不良の持っていた不良の靴が落ちて、

思わず支えた体重は思ったよりあって、

ふらついたこちらの腰に不良の腕が回る。

「悪い」

「どうした、おまえ何・・・、熱、凄いぞ熱が」

「おー」

「おーじゃないどうするんだ、死ぬぞ、しっかりしろ」

「ぶはっ、死って、大げさだなおまえ、へーきだって」

「・・・」

でかい、

図体をおぶるなどと、

言う考えはさすがに起きず、

急ぎ自身の履物を替えると、

息の荒くなっている不良に肩を貸して、

校舎を出てちらりと、

視界に入った屋上から逃げるように寮に向かった。



Sunday, 05, Feb | トラックバック(0) | コメント(0) | ●グリウル | 管理

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