I f グリムジョーver ~退行~ |
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| ①
その音はどこまで届いただろうか。
ゴン、と切れよく一音、
つまづいて勢いよく、
その背中を押してしまったディ・ロイが悪いだとか、
その日たまたま高い場所に座っていたという運命が悪いだとか、
理由付け、または原因解明という名の後悔を並べるときりがない。
仮にも十刃であるグリムジョーが、
まさか受身を取り損なうだなんて誰が思ったろう。
②
「参りましたね、知能が著しく低下しています。
判別能力、忍耐力を始めレベル的に言えば・・・」
「いでででででっ」
無表情な顔で、ディ・ロイの鼻を力任せにつまみ、
引っ張っているグリムジョーを一瞥し、
シャウロンは眉間にしわを寄せた。
「現世でいう幼児です」
はー、とその場にいる殆どが、憂鬱な息を吐き出す。
「ばーか、うんこ」
「うんこ言うな」
意識を取り戻してからずっと、こんな調子のグリムジョーを、
咎めるディ・ロイの顔には早くも疲労の色が出ていた。
ずっとお守りをしているディ・ロイを含め、
今回の事件に関与しているメンツは、
その場に居合わせたシャウロン、ウルキオラの二人と、
しばらく意識の無かったグリムジョーの傍で、
あたふたとしていたディ・ロイに絡みに来たイールフォルト。
騒ぎの途中にやって来てあっという間に巻き込まれたヤミー、
そして当人グリムジョー。
③
「シャウロン、グリムジョーは治るのか?」
「ええ、と・・・そうですね、まあ・・・あと12時間程はこのままでしょうが、
治る見込みはあります」
「そうか」
「まあその見込みってのに頼るしかねえな」
「はい」
ウルキオラの質問に答え、ヤミーの言葉に頷くシャウロンに、
一番知識が深いということで全ての判断が任されていた。
「ぎゃーっ、馬鹿、引っ張るなって」
履物を押えて、軽いパニックを起こしそうになっているディ・ロイが叫ぶ。
「ばーかばーか」
「やめて、やめろ!怒るぞ!!」
「怖くねー」
「叩くからなっ」
「痛くねー」
「やめろってばーっ!!」
涙目で焦った声を出すディ・ロイを眺めながら、
「問題は世話か」
ウルキオラが真顔で断言した。
「世話だな」
ヤミーが続く。
④
「ちんこ」
「馬鹿!」
やっと体勢を立て直したディ・ロイが、
自分よりも背の高いグリムジョーの額をペシリと叩く。
「痛くねー」
「・・・」
ふてぶてしい巨大な子どもに、
ディ・ロイはひくひくと引きつった笑みを向けた。
「ばーか」
「はぁ、わかったよもう、馬鹿です俺は、はい」
「・・・」
脱力してグリムジョーの肩に手を置くディ・ロイに、
グリムジョーが笑いかけた。
「ばーか」
「・・・うん」
いい笑顔だった。ディ・ロイの顔がほころぶ。
「とりあえず俺がまずお守りするよ」
(ほだされてる)
(ほだされてますね)
(ほだされてんじゃねーよ)
⑤
「それではディ・ロイ、こちらで話がまとまるまで、
グリムジョーを頼みますよ」
「おう」
グリムジョーの顔は、もう元の無表情に戻っていた。
「うんこ」
「それはもういいから!!」
すかさずディ・ロイの教育的指導が入る。
「おい、ディ・ロイ、おまえがどうしてもと言うなら、
手伝ってやらんことも無いぞ」
ニヤニヤと笑うイールフォルトの申し出を受けて、
暴れる子どもの被害者は疲れた顔を持ち上げて言った。
「あのさ、手伝ってくれるんならイール、
頼むからグリムジョーと喧嘩しないでね。
頼むから俺の仕事増やさないでね」
余裕の無いディ・ロイの言葉は本音100%だった。
「なっ、カスがああああっ」
「それ、その切れやすいの困るから」
「・・・っ・・・」
ずばりと指摘されて、イールフォルトがつまる。
「ぷっ」
ヤミーが小さく笑い、シャウロンが口元に手を当てた。
「しかし、実際ディ・ロイだけでは大変だろう、
交代制で手伝うと言うのはどうだ?」
「そいつはいい」
「で、最初の手伝いは俺達がやろう、なあヤミー」
「・・・」
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Wednesday, 25, Jan | トラックバック(0) | コメント(0) | ●Allキャラコメディ | 管理
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