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カテゴリーの『取扱について』を読んで下さい。
 



干渉⑤(十ミヤ)


「十文字」
呼んだら奴は、ビクリと反応して顔を上げた。
「・・・昨日のこと、どーすんだよ」
なんかメンドーなので、俺から切り出す。
「ああ、ウン。えーと」
ごまかすような言葉と、むっとする夏の空気が体にまとわりついて
さらに不快度が高まっていく。
「平気か?」
「ン?」
「体」
そこから来るか。まぁ自然な切り口だな。奴にしては。
「アー、あんまり」
俺にしては控えめな返答。
「・・・あんまりか・・・」
奴が繰り返した。
「腹壊した」
「えっ・・・!!」
戸惑いで固まった奴に、俺は笑いかける。
「おまえのほうは?」
キョトン顔。
「出すもの出せて快調なんじゃねぇの?
 良かったね、俺っていう手ごろな便所が見つかって?」

「・・・っ!!」

絶句。してるみたいね。
「そ・・ナつもりじゃ・・・っ」
青い顔。そうやっていちいち傷ついてくれて嬉しいよ。
「で、どう責任とってくれるわけ?」
「・・・」
ムカツクだろう笑みを浮かべながら、顔を近づけた。
そこで、突然景色が揺れる。
壁に押し付けられて、
え?
また?ちょっと身体的にキツイよ。
「なんでおまえは、そうやって俺を怒らせるンだよっ」
腕で奴を押すも、簡単に抑えられて、密着する体。
「放せよっ」
必死にもがく。が、気が焦るばかりで、無駄骨。
抑えてくる奴の息遣いが荒くなってきてコレはマジでヤバイ。
「これ以上減らず口叩いたら・・・」
「・・・っ」
身の危険を感じ、口を結ぶ。
(表現の自由を!)とか心中で叫びながら。
「・・・馬鹿にしてるだろ俺のこと」
奴は、溜め息の後、声を絞り出した。
そんなことは・・・あるかもだけど、
とりあえずその、真摯な姿勢だけは買ってますよ?
「俺に、つきまとわれるのは、イヤか?」
「・・・」
「迷惑・・か?」
「・・・」

・・・えーと・・・

真剣な目に緊張する。
言葉が、
言葉に、
力が必要なのだということ、

それを思い知らされる。

「その、
 あー、ま、始めは、ウザイだけ、
 だったけど・・・」
「けど?」
「その、俺、アンタみたいなタイプの人間と、
 接したこと・・・無かっ、無く、・・・て・・・でも
 別にイヤじゃないけど・・・」

・・・上手くまとめられない・・・

「・・・だからっ」

焦り声が震える。

伝えたいこと、それを、
それだけを考える。
一番、
思うこと一番の意思。

「縁が切れたら、正直寂しい・・・」

「・・・」
「・・っ・・そうか」
奴は俺を解放すると後ろを向いてしまった。
「寂しい・・・か」
俺の言葉を反復し下を向く。

・・・耳が赤くなっている。

(・・・っ)

コイツ照れてるよ!!

「おい」
「・・・」
「十文字?」

あーくそ、

こっちまで何か顔に熱がっ・・・
あー・・・もうわかった!わかったよ俺、
こいつ嫌いじゃねーよ、けど、
なんか・・・

・・・―――っ・・・痒っ

なんだろうコレ、
青春白書?

かっゆぅ~!!!!!

俺の本能がものッ凄い拒絶反応示してるんですけども!
やめてやめて、無縁なんだってばそーゆー世界。

アンタ異邦人だよ、
俺とは別の国の人間だよ、


純情の国の我侭王だ。


ちょっと想像したら、なかなか笑える。

「・・・昨日の責任のことなんだけどな・・・」

「ん?」
奴の声が、さっきよりはっきりと耳に届いて、
ちょっと吹いた風が髪と首の間を、すっきりと抜けていった。
「コレで、勘弁してくンねーか」
奴は自分の拳を、誇らしげに俺に見せ付ける。
「?」
「おまえの、気にくわねー奴を、一回だけ、どんな奴でもぶっ飛ばしてやる」
「・・・、俺のほうが悪くても?」
「・・・悪くても・・っ・・だ」
ハハ、なるほどな。コイツは使える。
って・・・オマエこれ、どうなの?いいのコレ俺、オーケー出して?
だってアンタ、しわよせ別の人間にしただけじゃん?
・・・
って、あ、そうか・・・。
・・・そーゆうことね。
「じゃ、さっそく使う」
奴の顔が輝く。やっぱり、コレを期待してたんだろーね。

「十文字 一輝、凶悪な強姦魔です。殴って下さい」
「わかった」


鈍い音。

頬は、あかく腫れ、
「・・・げほっ」
口の中が切れたらしく、血を吐いた。
「何もそんな力一杯・・・」
・・・呆れた。馬鹿じゃねぇの?
でも考えたね、俺への責任取ったことにもなって、奴の気も済む方法。
・・・他の人間には、迷惑のかからない方法。

本当はもっと汚いことに使いたかったな、アンタの拳。・・・。
「・・三宅・・・」
「あ?」
奴は赤く腫れた頬のある顔で、にかっと笑った。
「ありがとな」
・・・。えーと、反応に困るんですけど?
「アンタが殴れる人間の範囲なんて限られてるからね、
あんま使えなそうだから、妥協してみた」
「何ぃ?」
「だって仮に、ヒル魔さん殴ってって言われたら?」
「・・・それは・・・」
口ごもった奴に笑いかけた。こんな自然に、
イヤミじゃない笑みが出たのは何年ぶり?
コレは奴の影響か?
いや、影響なんて生易しいモンで、俺が変わるハズない。




干渉だ。

奴が、俺に干渉してきたんだ。
笑いかたから気持ちの根元、頭の中や夢にまで。
我侭王の純情の国は、やたらと大きな国だから、
汚れた小国に干渉してくる。
王直々に、圧力と熱意で。

「明日、またここで待ってる」
「ン」

短く答えて、一歩踏み出した。
赤い空、校舎裏の倉庫前。
俺たちは、同時にそこを去った。





FIN



Saturday, 01, Apr | トラックバック(0) | コメント(0) | ●三宅受け | 管理

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