『昼休み』(イルロイ) ※アンケート1位/高校生破面 |
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「だから何度言えばわかるんだおまえは」
そう、苛ついた声色で怒鳴ると、
困ったような顔をして奴は笑った。
春の、風を運ぶ窓の下、
座り込んでいるディ・ロイの昼食へ向けて、
その、量の少なさを指摘するのが日課になってしまった。
「大体、無理な減量は身体に毒だ。
力が出なくなるぞ!
それくらいおまえでもわかるだろうがカス」
「うん、でも・・・」
「でもじゃないだろうカス、
ボクシングの試合と、
健康とどちらが大事だ」
「ボクシ・・・」
「クソがあああっ」
「・・・健康です」
「当たり前だ」
そう、言う内にカスの、
昼食の安いパンを包んでいたラップの中に、
今朝、作った自分の弁当のおかずを無理矢理置いて、
「喰え」
命令する。
「うん」
曖昧な笑み。
「凄い、嬉しいんだけど俺、減りょ・・・」
睨みが効いたのか奴は、
黙って俺の手料理を口に運ぶ。
「味はどうだ」
「え・・・う、うまいと思う」
「そうか」
内心、狂気乱舞している己を自覚。
(女々しい)
「カス」
「何?」
「俺は、おまえなど何とも思っていないからな」
「・・・うん」
「ただ、おまえがあんまり、
自分の、健康管理能力が低い、から、
だから・・・」
「うん、だからイールは優しいなって、
俺、いつも感謝してるよ」
「・・・」
言って、へらりと笑う。
いつから、この笑みと共に昼食を取るようになったか。
いつから、自分のピアノは人に、
聞かせるための音を奏でるようになったか。
二人、音楽室の窓際、
ひたすらに幸福な時間。
そう、思っているのは自分だけかもしれないと、
時々よぎる不安を、
胸の内でいつから、
抱えるようになったか。
「クソ」
呟いたらディ・ロイは、
少し考えるふうな動作をすると、
「イール・・・」
上目使いにこちらを見やる。
いたづらの相談でも持ちかけられるのかと思った。
頬に、何かが当たる。
「本気で感謝の印」
キスだ。
と気づいたら冷や汗が出た。
そういう、突然の接近はやめて欲しい。
とても心臓に悪いしそれが、
どういう意味だとか深く考えてしまうからやめて欲しい。
そう、思っているのに腕が、
今にも目の前の痩せた肩を包みたがっている。
(落ち着け、抑えろ、今のはただの挨拶!)
家族や、仲の良い友人にするそれだ。
パニック、
しているのを懸命に隠す。
「良い、お嫁さんになれるね」
なんて、笑う奴に、
一言も言葉を返せなかった。
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Saturday, 07, Jan | トラックバック(0) | コメント(0) | ●イルロイ | 管理
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