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カテゴリーの『取扱について』を読んで下さい。
 



突然 side M-a (十ミヤ+舞)


突然、不安になった。
今まで、ずっともやもやと形の無いものであったその感情に、
突然、不安という名が付いた。
じりじりと、胸のあたりで騒いで、
だんだん、腹の底に落ちてくる。・・・黒い色を帯びて。

黒い不安を、嫉妬と呼ぶのかもしれない。

「なんだよ舞茸、おまえいつ十文字の味方になったんだよ」
「別に、味方なわけじゃない」
「けど今のは味方発言だったぞ」
不服そうな三宅の、後ろにいる十字傷の不良と、目が合う。
「あんまり、三宅が人に迷惑かけないようにって。
 十文字さんは、俺とはちがうんだからな」
言うと、不良の目が険しくなった。
俺の、言葉の中に、含まれる疎外感を感じ取ったのだ。
「十文字さんもなんでこんな奴に惚れちゃったんですか?
 苦労しますよ?コイツ、付き合いとか長続きしない人間なんで。
 2ヶ月持てば良いほうですよ」
貴方は、いずれ遠くにいく人間だと暗に伝える。
不良が、そのことを気にしていた、ということを、
俺はわかっていた。
彼の野蛮さに、三宅がついて行けなくなること、
それを、彼は気にしている。
だから不良は俺に、自分をセーブする役割をしてほしい、と言ったのだ。
今日だけでなく、これからも、という意味をこめて。
俺に、助けを求めた。
さっき、不良の目が真剣だったのはそういうことだ。
不良は、口惜しそうな、悲しそうな目をした。
それから、親に手を振りほどかれた子供のような顔をして、
下を向いた。
やりかけの課題に、黙って向う。

なんだか俺は悪者だった。

でも、だって、仕方無い。
三宅が、三宅じゃないようなことを、したという不安。
いつも、断りなく遊びに行く俺だが、今日は事前に、
連絡を入れていたのだ。なのに鉢合わせになった戸惑い。
もちろん、相手は恋人なのだから、優先しろとは言わない。
過去にも、ちゃんとそこは譲ってきた。
問題なのは、連絡が来なかったこと。
忘れられた。
というより、それだけ三宅が、
いっぱいいっぱいになっていたと、いう事実だった。
そんな三宅は、俺の知っている三宅じゃなかった。
突然の不安は、俺を悪者に変えた。
三宅が、
変わってしまうんじゃないかという焦り・・・
俺の知っている三宅が俺の、
知らない三宅に変わっていくのが嫌だった。
前は、彼のようなまっすぐな人間が、
三宅を好いてくれた奇跡に、驚き半分で喜んでいた。
のにどうだろうここに来て、
突然不安になった。




問題集を片手に、
「なんだ三宅の奴、寝ちまったのか・・・ 」
上半身をひねってソファーのほうに向いた不良が呟く。

・・・あれから30分、

三宅は、
俺の持ってきた雑誌を読みふけっているうち睡魔に襲われた模様。
俺は、
考え事をしながら本を読んでいて不良は辞書と戦っていた。
「起きろよ、ミヤ・・・」
寝ている三宅に向かって呟くと、ボキ、という音がした。
不良が、シャーペンの芯を折ったようだった。
「ミヤ」
時々、付き合いの長い俺が三宅を呼ぶときに使う愛称。
「ミヤ」
ゴリゴリ、強すぎる筆圧がノートを削る音。
「ミ・・・」
ガリ、ビリ・・・。ボキ。破れたノート、再び折れたシャー芯。
「三宅!!てめぇ早く起きろ!」
大声で怒鳴って、振り返った不良の顔は、真っ赤で、
「ミ・・・」
「わあわあわあわあわあわああ、わ~~~~~っ!
 起きろったら起きろ!!」
必死で、
「ぷっ」
おもわず吹きだしたら少し胸が温かくなった。
「てめぇ!舞茸!何笑ってんだ!」
「いや、別に」
「クソ、三宅!おまえ起きろ!」
「ミヤ、いいかげん起きろって」
「うるせぇ!ミヤって呼ぶな!」
「ミ・・・」
「わぁ~~っ聞えねぇ!聞えねぇぞチクショー!!」

俺は、

三宅の親友だった。

今までもこれからもそうであり続ける。
俺は親友で彼は恋人。
彼は恋人である以上、どんなに頑張っても親友にはなれない。
重かった心臓が、軽くなった気がした。
俺には俺の位置があってその位置から、
変わった三宅の知らない面を、また知ればいい、
新しい三宅の、また親友でいればいいんだ俺は。

ただ、

それだけのことだ。

・・・簡単なことだ。

信じられないくらいに気分が、晴れていくのを感じる。
「んだようるせえ、とっくに起きてんだよ。
 恥ずかしい奴」
目を閉じたままの三宅が呟く。
「なんだおまえ、起きてたのかよ。
 いいかげんその面倒臭がり治せ。
 どこから寝たふりだったんだ?」
コイツが、起きるのが面倒な時に狸寝入りをやることを、
知らなかった不良は固まっている。
「んー、'なんだ三宅の奴寝ちまったのか・・・'から」
「最初からじゃねーか!!ってかまだ目ぇ開けてねぇし!
 三宅オマエいいかげんにしろ!起きろてめぇ」
「十文字うるさい」
「ぐっ」
「・・・ミヤ、もう目、覚めてんだろ。起きろ」
「あ~、はいはい」
かったるそうに、起き上がった三宅は、
十文字を見て吹きだす。
「ぷっ、何十文字、おまえなんでそんな顔赤いの?」
「っせぇ!」
「やきもち?やきもちなのかオイ?!呼び名一つで??」
口端をあげて、からかうような口調の三宅。
「それ以外なんだってんだよ!!」
とあっさり且つ直球の不良。
「・・・開き直るなよ」
肩透かしを食らった、気の抜けた三宅の呟きに、
俺は笑った。
そうして、軽くなった気分と、
色の落ちた不安が消えていく。

11時近くなって、俺は本を読み終わった。
「三宅」
「ん?」
「今日泊まるぞ」
「おう」
一人暮らしの三宅の家に、
泊まることはしょっちゅうだった。
「・・・十文字さんの課題、なかなか終わんなさそうだし」
でもこれは見張り宣言。
不良は、ピクリと、眉を動かしてそれから、
なんだか微妙な表情になり、
ニカリと笑った。


さようなら悪者の俺。
こんにちはブレーキの俺。



Monday, 20, Mar | トラックバック(0) | コメント(0) | ●三宅受け | 管理

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