突然 side M―i (十ミヤ+舞) |
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突然、家の中の世界が変わった。 一人人間が増えただけなのに、違和感。落ち着かない。 勉強を教えてくれと押しかけて来た目の前の男。 「十文字」 物置化しているソファーの前の低いテーブルに、 ゴツイ体を丸めて、せこせこ辞書をめくっている背中。 「ん?」 わざわざこっち振り返んなくて良いっつーの。 ソファーにでんと座っている俺は、 バラエティー番組の視聴者から急遽、 臨時英語教師になった。 「いや、なんでも・・・」 「 ? 」 足しびれねぇ?って聞こうと思ったけど、 振り向いた時の奴の顔が、やたらゆるんでいたからやめた。 何がそんなに楽しいのか。腹が立つ。 「悪かったな、急に邪魔しちまって」 「うん、毎週楽しみにしてた番組見れなくなってムカつく」 「・・・悪かったって」 と言いつつ、 少しも悪いなんて思ってなさそうな十文字は、 またちまちまと不慣れな手つきで辞書をめくり始める。 奴は勝手に、 残りの課題をすべて俺の家で終らせていくことにしているらしく、 帰ろうというそぶりをみせない。 落ち着かない。呼吸のリズムが、崩れる。 舞茸がいる時なんかはこんなことは無いのに。 無言の背中が、憎い。間が持たない。 今現在、俺の気に入ってるブルーの、 シャレた壁掛け時計は9時を示している。 急に、舞茸に何か、連絡しなくてはならない気がした。 何か、とは何か、なんて考えながら、携帯を開く、 「三宅」 「ン?」 「ヘルプ」 このタイミング。 狙ってんのか。一瞬、何か、を思いつきそうだったのに・・・ 吹っ飛んでしまった。 「あいよ」 いちいち立ち上がるのが面倒で、 ソファーの前に座っていた十文字の肩にのしかかる。 その肩が、ビクっと震えたような気がした。 十文字の後ろから、ソファーに膝立ちの状態で、 問題集を覗き込むと、近くにある、十文字の顔が、 強張っているのがわかった。 「どれ?」 「・・・っ、どれ・・・って、どれ、あ、これ」 震える声と指。 「あー、これは・・・」 十文字の肩はがっしりしているので、 いくらよりかかっても平気なような気がする。 伝わってくる体温が、少し心地良かった。 たぶん俺のことを意識して、 いっぱいいっぱいになっている十文字には悪いと思いつつ、 楽なのでそのままの体勢で説明を始める。 「以上、何か質問は?」 「・・・無い」 「んじゃ頑張れ」 言って、またソファーにでんと腰かけた俺のほうに、 十文字が何か言いたそうに向き直ってきた。 「・・・」 「何だよ?」 何だか、 トイレがまんしてるみたいな顔で見つめてくる十文字の恐怖。 「三宅・・・」 嫌な予感。目がアブない目がアブない。 「・・・おまえ、嫌がらせか?今の」 「・・・」 ・・・立ち上がるの面倒だったとか、 言えないような気がする。 俺は、 ある程度仲良くなった奴とはあれくらいのスキンシップは、 しょっちゅうする。から、 そんな、いくら十文字でも、あれくらいで、と思った。 踏みとどまってくれると、だから、 ・・・勘弁してください。 「それとも、誘ってたのか?」 目がアブない目がアブない。 ・・・勘弁してください。 悪かったです、 些細なことを面倒くさがった俺が馬鹿でした。 勘弁してください。 ガチャッ。 十文字の顔が目前に迫ってきた時、ドアの開く音を聞いた。 ソファーの、背のほうに張り付いている、 追い詰められた草食動物のような俺と、 座席部分に片足を乗せて、狩りの体勢に入っていた十文字。 の図を、目撃してしまった舞茸は、 ドアノブを掴んだまま固まっている。 「あ、ごめん」 言って去ろうとした舞茸の腕を、 瞬時に、 十文字のテリトリーとなったソファーから、 脱出した俺が掴む。
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Thursday, 23, Mar | トラックバック(0) | コメント(0) | ●三宅受け | 管理
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