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カテゴリーの『取扱について』を読んで下さい。
 



『千円』(グリウル) ※アンケート1位/高校生破面

生徒会なんてものに属して、

いつも正しい優等生面。

規則に沿った行動、格好、

当然、

退屈な日々の授業も涼しい顔で、

それはもう糞真面目に、



受けているのだろうと思っていた。





「ディ・ロイの奴いるか?」

その日、忘れた現国の教科書を借りに、

グリムジョーは他クラスに出張して来ていた。

「エート、チョットマッテテ」

ぎりぎりで聞き取れた日本語に従う。

(あいつ、よくこのクラスでやってけるよな)

右も左も日本人で埋められた教室を、

グリムジョーは物珍しそうに見回した。

(会話とかどうしてんだよ)

未だ日本語を話せない生徒のために編成された、

こことは一つ階のちがうグリムジョーのクラスは定員制で、

そのため、時期外れで転校して来たディ・ロイは、

丁度席の空いていた標準日本語クラスに編入させられたのだ。

(日本語、俺より話せねえくせに平気なのかよ)

そこに、先ほどの生徒が戻って来たので、思考を一時中断させる。

「・・ディ・・・カケチャッテル・・タイデ、

 カワリ・・・、ウルキオラ・・・テクレ・・・カラ」

「・・・っ?」

早口に流れる日本語に着いていけず、

「ちょ、おい、今何て・・・」

うろたえるグリムジョーを残して、

その生徒は去って行ってしまった。

「おい」

声を掛けられ向くとそこには、

ラテン系の面がこちらをじっと見据えていた。

(こいつ・・・)

黒い髪と強い目の力が迫るような印象を与える。

「何の用だ」

威圧的な口調で質問をして来たこの目の前の人物を、

グリムジョーは知っている。

(ウルキオラ・・・)

語学訓練と称し自ら標準日本語クラスを選択し、

生徒会監査を務める。

品行方正、成績優秀、運動神経も悪くないという完璧超人。

というもっぱらの噂である優等生だ。

数年前まで荒れに荒れて不良やら鬼やらと呼ばれ、

恐れられたグリムジョーとはまったく反対の意味での有名人である。

(気に入らねー)

眉を顰め、睨みを利かせるグリムジョーに、

怖気づく様子は微塵も無く、ウルキオラは続けた。

「早く用件を言え、おまえ、耳がついてないのか」

「・・・っ」

(ここで怒ったら負ける、ここで怒ったら負ける)

グリムジョー自身、目の前の超人に向く己の怒気が、

ひがみやねたみから生まれるものの一種だとわかっていた。

「現国」

「?」

「の、教科書借りに来たんだよ」

「・・・」

妙な間、ウルキオラは黙ったまま教室に引っ込み、

そうして、机の中から恐らく、

グリムジョーの目当てである教科書を探し当てると、

パラパラと中を見る。

「??」

分厚い教科書のページを、

慎重にチェックし始めたウルキオラのもとに足を運び、

鮮やかな手つきでそれを奪った。

「どーも、助かるわホント、感謝感謝」

「え?あ!」

身長のリーチを利用し、

グリムジョーは教科書を自身の頭上に運びニヤリと笑う。

「おい、返せ、返さないと・・・」

そこで、ウルキオラの声に重なるようにして予鈴が鳴った。

「ヤベッ!」

「あっ!!」

慌てて走り出したグリムジョーの背を、

ウルキオラは呆然と見つめた。





(なんだこりゃ)

多種族の混ざるごみごみとした教室の中で、

日本式の授業が展開されている。

3階であるため、窓の外はひたすら青く見える。

グリムジョーの座る中央の席からは、

窓など眺めても面白いものは見えない。

もっぱら、ノート、教科書への落書きで暇を潰す。

「・・・」

ただ、今回は借り物なので教科書への落書きは不可能、

たまには、真面目に授業を受けようかと、

パラパラとその、借りてきた教科書を眺めていた時である。

彫りの深い夏目漱石がグリムジョーの目に飛び込んできたのだ。

(おっさん、文学のおっさん、何て姿に・・・)

まじまじと見ると、それが落書きであることがわかった。

試しに他の著作者のページに飛んでみると、

そこには太った偉そうな評論家の鼻からリアルな鼻水が垂れている。

しかもその写真の下には、

花粉症にお悩みの○○氏、鼻水は顔の一部です。

などとふざけた文句が足してある。

(最高・・・)

なぜか心の底からエールを送りたい衝動に駆られた。

奴はできる。

妙な連帯感につつまれて、授業終了のベルの音と共に、

教室に駆け込んで来た優等生の姿を確認すると、

何も考えずに抱擁していた。

「おまえサイコー、マジ面白れーよ、センスあんじゃん!」

「・・・み、見たのか」

「見た」

グリムジョーの腕から逃れ、

取り返した教科書をがっちりと抱えたウルキオラの顔は真っ赤で、

「勘違いするな、あれは・・・」

必死に言い訳をしようとしているのだが声が上擦っている。

「真っ赤・・・」

「うるさい!」

涙目、相当恥かしいのだろう。

その、慌てふためく姿を、

不覚にも可愛いと思った。



そうして、最近はもう使われていないとはいえ、

時たま手にする日本札の、

夏目漱石を見ては超人の、

赤い顔を思い出すのだった。



Friday, 27, Jan | トラックバック(0) | コメント(0) | ●グリウル | 管理

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