干渉②(十ミヤ) |
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涼しい風が、青々とした葉を揺らして、 木陰は居心地が良い。 「おおっ!スゲー」 今日も相変わらず木陰でサボる俺と舞茸。 舞茸はアメフト部に釘付けで、俺はできるだけ見ないよう努めてて。 「あの十文字っての凄ぇよ」 ピクリと反応してしまった自分を呪う。 舞茸が、説明したそうな目でこっちを見てる。 「・・・どいつが十文字?」 「ホラ、あそこ、三人並んでる、真ん中の」 舞茸は完全にアメフト信者。 「アイツだよ、俺ボコった奴」 「嘘、マジで?悪い三宅」 「だから気にしてねぇっつーの。てんで腕力なくて、全然痛くなかったし」 強がってみる。 「ンなわけねぇだろ、見ろよアレ」 ガッシーンッて音が、近く行ったら聞こえンだろーな。 練習用っぽい板にぶつかる、奴の姿確認。 スピードと、板の揺れるカンジが、凄まじさを物語っている。
そして、
真剣な目。
「おまえ、あんなのにやられてよく顔変わらなかったな」 舞茸がしみじみと、呟くように言った。 そりゃぁ奴が腹ばっか狙ってきたからね。顔はほとんど無事でしたよ。 「・・・よけられたからな」 ごく自然に嘘八百。 「マジか?凄っげー!」 マジなわけねぇだろ。 すぐ何でも信じてしまう舞茸で遊ぶのは楽しい。 が、その時、俺はとんでもないことをしてしまったと気付いた。 あの野郎と目が合って、舞茸のおかげで楽しくなった気分が、一気に吹っ飛ぶ。 自分の仕出かした愚行に、心の中で罵詈雑言。 俺は舞茸と話してる間中ずっと、奴を見つめ続けていたわけだ。
「おまえ、見てたろ」 例の場所で待っていた奴の顔は、珍しく仏頂面じゃなかった。 口端をあげてニヤニヤしている。・・・どうしようかなぁもう。 「別に・・・アンタ見てたわけじゃないンだけど」 苦しい、我ながらすごく。 「ほー?」 何その、自信有り気な顔。すごいムカツクんですけど。
どうやって反撃しようかと、本気で悩んでいた俺に向かって、 奴がしごく真面目な声で、アホみたいなことをほざいた。 「エロイな」 ・・・は? 「おまえの顔って、歪めると凄いことになる」 頭おかしいよ、色々な意味で怖いよ。 「・・・俺、おまえに惚れたかもしれねぇ」 何の前触れもなく爆弾投下。 ・・・ 逃げ遅れた俺の、思考回路が吹っ飛ばされた。 射るように見つめられて、滝汗。 それでもお利口な運動神経が、 体だけでも逃がそうと、機敏な反応をしてくれた。 「ッッッ!!!!」 腕に激痛、力強すぎだって。逃避失敗。 「真剣なんだよ!俺は!」 余計に恐ろしいっつーの! 「腕放せよ!」 「放したら逃げるだろ!!」 「だってオマエ、俺オトコ・・・つか趣味悪ぃって絶対」 「自分で言うな!!おまえ見方変えれば結構かわいいぞ」 色眼鏡ってヤツか。 「なぁ、頼む。俺もう、ズリネタにするくらい、おまえのこと・・・」 必死なのはわかるけど、ズリネタとか言うな。 「俺だっておかしいって思ってんだ、おまえオトコだし、 ヘンだよなって、・・・俺、普通じゃねぇって、けど」 ・・・すがるような目で見ないで。 俺にどうしろっていうの。 「・・・このままじゃ俺、またおまえのこと無理矢理っ」 ザー、って血の音。冗談じゃない。っつーか脅しかよ、要は体目当て? 「サイアク・・・、おまえ」 俺の声に、激しい嫌悪の色が混じっていることに気付いて、奴がハっとなる。 「・・ごめっ・・!!でも好きなんだ。どうしようもなく!」 言い切られて、また様々なキモチがぶっ飛ぶ。スカっと、気持ち良いくらいに。 どうすればいいかわからない。 こんなにストレートに、感情をぶつけられるのは初めてだ。 真剣な人間ってのは凄ぇな。 大体初めから、 テキトーな俺と真摯なアンタじゃ、勝敗なんて決まってたようなモン。 さっきの一言が、俺の心をがっつりとつかんだのがわかった。 そんな言葉、生まれて初めて言われたよ、馬鹿野朗、あんま嫌じゃなかった。 「・・・わかったよ、もう。 わかったから放せよ」 自由になった腕。 気付くとやっぱり、奴は恐ろしく真剣な目で、俺を見つめていて、 かゆいよズリ野郎。
「あっ、オイ!」 逃走することにした。 すぐに答えが出るわけないし、出ても奴に流された答えになりそうだし。 少し落ち着け俺、冷静になって考えなきゃ駄目だ。
茜色の空の中で、涼しくなった夏の夕方。
俺は初めて、奴より先に校舎の裏を後にした。
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Saturday, 01, Apr | トラックバック(0) | コメント(0) | ●三宅受け | 管理
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