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カテゴリーの『取扱について』を読んで下さい。
 



干渉①(十ミヤ) ※IC


住む世界がちがう

そう思った


炎天下の砂地獄
「あっちぃ~」
サッカー部の練習場の、横の木の木陰。
風通しも良い。
そこに舞茸と座り込む。はい、サボリでございます。
どうでもいい雑談でもしようかと思って、
話し掛けようとしたら、
「何見てンの?」
舞茸の視線が、直射日光の一番当たる、
グランドのあるスペースに注がれていた。
そんな鉄板の上みたいな空間で、激しい練習をしてる奴等がいて、
どこの部だ、熱射病ナメんなよ。とか思っていたら、
「・・・アメフト部、凄ぇ」
横の呟きが、勇気ある馬鹿達の団体名を教えてくれた。
「アメフト部・・・」
「あ、悪い。禁句だったな」
俺が繰り返すと、舞茸がはっとして手を合わせる。
「ン、いや。別に」
「別にって・・・オマエ、この前アメフト部の奴に・・・」
「あー、まぁ」
数週間前、俺はアメフト部の元不良にボコられた。
翌日学校を休むほど叩きのめされて、恨みが無いといえば嘘になるけど。
問題はまた別にあって・・・。
俺としてはあのコトを無かったことにしたい。
さっさと忘れてもとの生活に戻るためには、傷口だなんだと気にしないで、
アレは無かったことなんだと自分を騙すに限る。
「舞茸、アメフト部好きだろ」
「えっ・・・」
「活躍してるもんなーアイツ等。テレビにも出てるし」
そういや昔入部試験とか受けたな。
「練習も頑張ってンじゃん」
自分の声がひどく平坦に流れている。
「良ンじゃねぇのアメフト部、ヒル魔さん格好良いし」
「う、あ」
舞茸が困っている。
「アレはさ、元はと言えば悪いの、俺だし、な?」
おまえは気にするなよ?と暗に匂わせる。
こんな反吐の出そうなさわやかなセリフ、俺らしくないけど。
舞茸にアノ事件を気にさせないようにするには、こう言うほか無かった。
現に、非があるのは本当に俺のほうだしね。

『当たらねぇ』
あの時、室さん、俺と舞茸を可愛がってくれてる先輩がぼやいて、
アメフト部の部室を改造してできたカジノ場での場面。
『こんなン、ほら、こうやって・・・』
俺はちょっとかじったことのあるサギの腕を披露。
『おぉ、出る!出る出る出る~~!!』
室さんは大層お喜びになり、俺も薄ら笑み。
ソレがコトの発端。

俺も考え無しなことをしたと思う。
あのヒル魔さんの管理するカジノ場で、不正行為をするなんて・・・。
報復は次の日に、突然やって来て。
暗い夜道に十字傷の、
不良の面倒くさそうな顔に、
俺はやばいと心中で叫び回れ右をしてそこで、
腕を捕まれガツン・・・
殴られてそのまま路地へ。

正直恐ろしかった。

不良はしきりにネガさえなければとぼやき俺を殴り続ける。
腹に入れられた蹴りはひたすら痛切だった。

息が苦しいし鼻血出てるし・・・
それでも、
そこまでは良かった。
あ、思考ストップ。これ以上の回想はマズイ。

忘れよう

空が赤くなって、グラウンドにはまだ片付けをしている運動部の姿。
俺は校舎の裏に向かう。
イラだちと憂鬱の間の感情を持て余しながら、
自分の決意と矛盾した時間を過ごしに行く。
使われていない何かの倉庫があって、空間は狭い。
ソイツは壁によりかかって待っていた。
「来たか」
仏頂面。十字傷。俺をボコったアメフト部の元不良。
大嫌いだ。
「で、どうなんだ」
奴が単刀直入に聞いてきた。
「やっぱ・・・まだ、許せないか?」
「・・・許すとか以前だっつーの」
眉間にしわをよせて吐き捨てる。
「悪かったって」
「だから忘れるって言ってンだろ!しつこいんだよ!!」
語気を強めて、攻撃的に発した俺の言葉に対する、奴の声は静かで、
「忘れんなよ、事実だ・・・」

強い

奴は下を向き、頭を掻くと、
合図も無しに顔を上げて、正面で俺を捉えた。
「どうしたら許す?やれる範囲なら何でもやる」
重い言葉と視線を直に受けて、一歩下がりたくなった。
―――やめてくれ・・・。
「はぁ・・・」
思わず出た溜め息。
奴の顔がちょっと曇って・・・
だからやめてって、そういう真剣な感情、ぶつけてこないでってば。
「三宅・・・」
「・・・もういいって!!」
「何がだよ」
すこし怒ったような声色
「俺が忘れてやるっつってンだから、アンタももう気にしないでくれよ。
 これ以上、・・・こんな意味の無い呼び出しとか、してこないで」
とたん、肩に強い力を感じて、ああ、肩おさえられたのか俺。
そんなンしなくたって逃げませんよ。
タコみたいに赤くなって、凄い剣幕。
勢いが怖いんですけど。
「・・・っ」
目を瞑って、体中に力を込めた。殴るなら殴れ。
ふいに、肩から熱が離れていった。目を開けてみる。
奴は、叱られた子どもみたいな顔で、
まっすぐ俺を見ていた。
「また明日な」
そう言って背を向け、去って行く後ろ姿が、
やたら丸く見えて、なんか罪悪感。
俺何もしてないのにね。
それからふと、また会う約束をとりつけられてしまったことに気付いて。
・・・やられた。
明日もアンタと会うわけ?勘弁してよ。

こっちは必死に忘れようとしてるのに。

邪魔しないでくれよ、アンタと顔合わせると、嫌でも思い出しちまうんだよ。
十文字 一輝、俺をボコって犯したキチガイ男。

甦ってくるのは、奴の荒い息遣いと、狂ったような目。
俺は繰り返し腹に入れられる蹴りで、吐きそうになるのを堪えてた。
始めは、うん、結構冷静に、見下したカンジで、
いかにもボコりに来ましたって雰囲気だった。
けど、どれくらいからだったろう、
次第に奴の目に熱っぽいものが感じられるようになった。
奴がやたら興奮していたのが、なんとなくわかった。
気味が悪いと思ってたら、服の前を開かれて・・・
そのまま・・・

と、また思い出してしまった。

ああ記憶削除してぇよ。

「もーっうぜぇーっ」

思わず、
声に出して叫びしゃがむ。
・・・・どうにかして、奴と縁を切ろう。

それで早く、一日でも早く忘れよう。



Saturday, 01, Apr | トラックバック(0) | コメント(0) | ●三宅受け | 管理

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