『口笛』(イルロイ)① |
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唇を丸めると音が出ることを知った。
以来、俺はまるで楽器にでもなったように、
自由自在に音を出せるようになった。
ちょっとこれは凄い楽しい。
出てきた音を繋げたりして遊んでいたら、
シャウロンがそれは口笛だと教えてくれた。
「ぶっ、何今の、グリムジョー下手糞!」
「っせえ!」
「こうだよ・・・」
「こうか?」
「っ!!!・・・ぎゃはっ!!変な顔~!!!」
ひゅうひゅうと抜けた音を出すグリムジョーは、
すっぱい顔をしていて可笑しかった。
「もう知らん、俺はそんなのできなくても困んねえんだよ!」
「なにそれ」
そっぽを向いたグリムジョーは結局、
ピーともプーとも吹けず、いい歳をしてむくれた。
数日、俺は口笛に夢中で、
そのたびにグリムジョーが面白くなさそうな顔をした。
それでも口笛には興味を持っているようで時々、
突然、
「今日は静かだよな」
「え?」
「静かだ・・・」
などと言って催促をしてくる。
音に、種類をつくれるようになると、
シャウロンはそれを曲だと言った。
「なんか静かだよな」
その日も、相変わらずの催促を貰い、
「はいはい」
ふと俺は気付いた。
最初の頃は、凸凹で調子はずれだったのに、
最近のは滑らかで耳に心地よい。
俺はいつもほとんど無意識で音を吹いていたから、
今ここで初めて、
「上手くなりましたね」
「シャウロン」
己の成長みたいなものを実感することができた。
嬉しくて弾んだ声が出て、それから、はっとする。
「ね、イールは?」
「イールフォルト?」
「どこ?」
「知らねえ」
どうしてか、嬉しいと思った瞬間、
イールの顔が浮かんだ。
この感動を知ってほしい。
できれば、それを共有したいと思った。
イールにこれを聞いてもらって、
イールに俺が、どんなに嬉しいのかわかってもらって、
それで、
「良かったな」
なんて一言をもらえたら、物凄く、幸せになれる気がする。
「イールーっ」
グリムジョーの元を久しぶりに離れ、一人通路をきょろきょろとして、
うろついていたら突然、
「わっ?!」
肩に手を置かれた。
「シャウロン・・・」
「ちゃんと前を見て歩かないと転びますよ」
「うん、なあイールフォルト知らない?」
「さあ?見てませんね」
「くそー、どこ行っちゃったんだあいつ」
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Tuesday, 10, Jan | トラックバック(0) | コメント(0) | ●イルロイ | 管理
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