『輪』(ウルキオラ +イルロイ) |
|
|
あまり闇の濃い場所でもなく、むしろ通路とも言える、
人通りの多い場所でよくやるなと思った。
「うわっ!!」
隣にいたヤミーから、頓狂で無粋な声が上がる。
二人、密着していた大と小の影。
の、小のほうがビクリと、反応してこちらを向いた。
「ディ・ロイじゃねーか、ってかそっちはイールフォルトか?!」
みるみる、青くなる顔に追い討ちをかけるように、
「なんだおまえら、え?マジか、オイ、ウルキオラ今、今の・・・」
騒ぎ立てる大男。
コイツは無神経な奴だなと呆れている間に、ディ・ロイは下を向いて走り去っていった。
「接吻だろ、何を驚く?害は無い」
「いや害とか、そういう問題じゃねえだろうよ」
「・・・」
「何の用だ」
残ったイールフォルトが、何事も無かったかのように涼しい顔をして尋ねて来た。
「用ってか、おまえら、その、何、できてんのか?」
「・・・フ、悪いか」
「いや、悪かねえけどよ」
「人目を気にしろ」
「そう、それだよそれ、俺はそれを言いたかったんだよ!
そういうことだイールフォルト、わかったか、もう少し」
「恥を知れ」
「そう、恥を・・・いや待てそれは言い過・・・」
「それも、貴様の言葉かヤミー、 何様のつもりだっ!」
「ちょ、何キレてんだこの野郎、変なもん見せられて被害者はこっちだ!」
「変だと?!」
「ウ、ウルキオラ!!てめー、よけーなこと言うから」
「貴様こっちを向け、まだ話は終ってない!」
「うわ、面倒くせーことになっちまったじゃねえかウル・・・」
「居ねえし!!」
後ろで、ヤミーが何かを叫んでいるがこの際気にはしない。
あまり騒がしいのは好みでは無いから、血の気が多い人間は苦手だった。
より静かな所へと足を運ぶ。
シャウロンの、好む場所が大抵過ごし易いのを覚えていたのか、
無意識に、あの静かな思慮深い男の姿を探した。
「シャウロン」
呼び振り向いた目標人物のその後ろに二つ、人影を確認して思わず眉を潜めた。
「あ・・・」
さっき、走り去ったディ・ロイは、どうやらシャウロンの元に逃げ込んだらしい。それと、
「てめー、ウルキオラ!」
「グリムジョー」
この場所に居ても落ち着けはしないと悟る。
「何か、用が?」
「いや、何でも、すまん、気にするな」
他の、場所に行こうと体の向きを変える。
「ウルキオラ!!!」
呼び止められ、顔だけを向ける。
ディ・ロイが、申し訳なさそうな顔でこちらを見ていた。
「何だ」
「その、さっき悪い、変なもの見せちゃって、気分、悪くさせちゃっただろ」
「別に」
「気を、つけるから今度から」
だんだんと、下を向いてゆくディ・ロイに、思ったことを告げる。
「おまえが、気をつけても無駄な気がする。主導権、向こうにあるんじゃないか?」
「うっ」
ギクリと、ディ・ロイが身じろぐ。
「あまり、いいようにされるな。体を大切にしろよ」
「え・・・」
その見かけと釣り合わず図太い神経を持ち合わせたイールフォルトに、
ディ・ロイは逆らえず恥を忍んで、従っているのではと、
あんな目立つところできっと嫌な思いをしたろうと、そしてこれから先、関係が進むにつれもっと、
辛い思いをするようになるだろうと思い、少しの同情を寄せて言葉を送る。
「なんで、そうなっちゃうんだ?」
が、ディ・ロイは軽くショックを受けたような顔でこちらを見た。
心底、残念そうな浮かない表情。何か、悪いことを言ったかと首をかしげる。
「ホラなあ!!言っただろ、やっぱおまえのほうが女役に見えるんだよ!!!」
「うー」
「それも、亭主関白に見えるんだが、ちがうのか?」
「いや、まだはっきり、決まったわけじゃないけど、やっぱ俺が、下なのか?」 「下だろ」
品の無い会話に、シャウロンが顔をしかめた。
「なあ?ウルキオラ!!おまえもそう思うんだろ!?」
同意を、求めてくるグリムジョーは笑っていた。
「ああ、というか、イールフォルトのほうが力が上だ。ディ・ロイには勝ち目が無いだろう。
確実に組み敷かれる」
「そんな、論理的に言うなよ、説得力あってへこむ・・・」
「シャウロンはどう思うんだ」
「・・・どちらとも・・・」
「なんだよ、はっきりしねーな」
「もーいい、やめてくれよその話」
「そうだな、どうでもいいな」
「よくない!!」
「どっちだよ!!」
いつの間にか、気を緩めていた己に気付く。
ネタにされた当人には悪いが日常の、暇つぶしのような会話をするのは案外、
悪くない。
常に貼り付いていたディ・ロイの笑みはヒクヒクと引きつっていて、
少し滑稽だった。
| |
|
Sunday, 29, Jan | トラックバック(0) | コメント(0) | ●イルロイ | 管理
|
この記事へのコメント投稿はできない設定になっています |