『気になる』(赤黒) |
|
| 『今、何をしている?』 赤司君からのメールに、 この文言が登場したのは何時からか。 『夕御飯、食べてます』 返事を打って、そこで終わり。 何かコメントが帰るわけでもない、 只、彼の興味を満足させるだけ。
時々、面倒になり放置することもあった。
「テツヤ」
バスケの練習が終わり、帰り支度までが済んだ頃合、 皆で帰る群から離れた場所に呼ばれた。 体育館についた、水飲み場の横。 何だろう。 「時間、どんぐらいだ?」 様子を見ていた青峰君が、 一緒に帰る事を前提に僕と赤司君に声を掛けた。 「長くなるから、先に帰ると良い」
皆の姿が消えた頃を待って、 赤司君は少し困った顔をすると、 僕に歩きを促した。
皆とは別で、帰る道。
皆を裏切ったような、妙な罪悪感。 何故、わざわざ皆と別に帰るのか。
「テツヤ」
道も、いつもの道ではない。 住宅街の細道を、敢えて進む赤司君に、 疑問を覚えながら、顔を上げる。 名を呼ばれたと思ったが、 赤司君はこちらを見ていなかった。 反対側を、そっぽを向いて眺めていた。 「迷惑メールばかりして、 悪かった」 「・・・自覚あったんですね」 何をしているのかを聞いて来る、 あのメールのことだとすぐにわかった。 赤司君が急に、こちらを向いて来て、 その目に驚いた。 いつものピリッとした、猛禽類のような、 あの目が今は、 寂しいと死んでしまう兎のような、 つぶらで切なげな光を放っていた。 「迷惑メールだと思ってたか?」 「いえ、そこまでは・・・」 「ではきちんと否定しろ、 落ち込んだじゃないか!」 それだけ言うと、またそっぽを向く。 「赤司君・・・、 どうして、あんなメールを?」 「気になるから」 「・・・」 「おまえが何をしているのか、 四六時中気になるからだ」 悪びれなく、不可解な告白をして、 赤司君は急に、片手で顔を覆った。 夕日で照らされた住宅地の道は、 家々の塀が赤い光を反射して、 滑らかで真っ赤な空間を作る。 どこまでもどこまでも、 同じ景色が続いていく。
赤司君の腕が、急に進行方向を塞いだ。
「胸が苦しくなったから、 離れて歩きたい、 30秒、待っていてくれ、 その間に僕が前に行く」
立ち止まると赤司君は走り出した。 無意識に、僕も走り出した。 離れたくなかった。
「赤司君」 「・・・っ、 何故追って来た」 「わかりません」 二人で全力疾走をしながら、 僕は赤司君がどうして、 あんなメールを送って来るのか、 考えて少し恥ずかしくなっていた。
「お、おまえら、 競争かよ」
気がついたらいつもの帰り道に行き着いていて、 皆が公園で時間を潰していた。 青峰君に声を掛けられて、やっと二人の足が止まった。 「話、終わったんスか?」 「ああ」 公園の入口付近にある、柵に腰を掛けた黄瀬君と、 その横で、柵の上に乗っかった青峰君の向こうには桃井さん。 緑間君と紫原君も、公園内のベンチから、 こちらを振り返っていた。 「赤司君・・・」 「何だ」 「皆にもあのメール、送ってるんですか?」 「いや・・・」 「僕だけですか」 「ああ」 ほっとした心が、赤司君のメールに、 今度はもっとマメに返信をしてあげようと決意した。
21:32 2013/04/29
| |
|
Monday, 29, Apr | トラックバック(0) | コメント(0) | 赤黒(黒赤) | 管理
|
この記事へのコメント投稿はできない設定になっています |