『苛める』(紫氷) ※R16 |
|
| 結局、俺は惨めな側に居るので、 歪むばかりなのだ。
一応、いつも精一杯、 まっすぐでいようとして挫折し続けている。
優等生になりたいわけじゃないけれど、 あんまりにも格好悪い事をするのは避けたい。 だから練習する。これからもずっと・・・。
「痛いよ室ちん」
バシンという音がする程の勢いをつけて、 敦の手を頭の上から払った。
「敦が・・・失礼な事をするから」 「失礼?どこがー? 頭なでなでしたんじゃん、 室ちんのこと、 可愛いと思ってさー、 おねむな顔してたし、 昨日したばっかで、 触りたい気分だったし・・・、 なのに、こんなバシッてされるとか、 ちょっと傷ついたしー、酷いんじゃね」
眉を下げて、敦は親に叱られた子どものような顔で、 責めるように俺と叩かれた自分の手を見比べている。
きつい練習が終わり、 寮に辿りついて寛いでいた。
沈黙を、雨の音がシトシトと塗り潰して行くので、 俺は言おうか黙ろうか迷った後、言う事にした。
「オーケー、わかった、 敦の将来のために忠告しておこう、 独立心のある人間はね、 頭を撫でられる事を好まないんだ。 格下に思われたと感じ、腹を立てる。 今、俺がおまえから受けた不快感を、 わかりやすく表現するとこうだ、 『俺を見下すな、俺とおまえは対等だ、 俺はおまえのペットじゃない』」
言ってから後悔した。 敦は納得していない顔で、不用意な発言を、 俺にぶつけようとしていた。
やめろ、言うな。
「俺と室ちんは、対等じゃねぇっしょ」
いつか殺してしまうかもしれないぞと、 沸いた憎しみを抑えながら恐れる。 敦は他人の気持ちなど、 欠片も想像できない子ども故に、 俺が敦の放った心無い一言に、 いかに歪み、汚れるか、わからない。
「チームだからさー、 協力はするけどー、 室ちんのことは基本的に、 下に見てるけど、俺」 「・・・そう」 「あ、怒った?」
ただ、言いたい事を言えるだけ。 言えるだけの力を持っているだけ。
いつも歪むのは俺の方。 力のないものが、力のあるものを恨む。
力のあるものはいつだって素直に、自由に、自然に、 だからこそ清く美しくいられる。
「敦・・・」 「んー?」 「おまえとはしばらく、ヤらないことに決めた」 「えっ!」
復讐したくて、苦しめたくて、 気があるふりをして快楽を教えて、 武器をつくった俺を俺は醜いと思う。
「俺は俺を不快にすることしか能のない男に、 構っていられる程暇じゃないよ、 事実だからって、 相手の傷つくことを平気で言う奴より、 嘘でも、 相手の喜ぶことを言える奴の方が好きだな」 「っ・・・、そんなん虚しくね?」 「うるせぇよガキ」
ベットに背を持たせていた俺が立ち上がると、 ベットに腰を掛けていた敦の頭は俺の胸ぐらい。 ぐしゃっと敦の髪を掴むと、乱暴にその唇を奪った。
「どうにもならない事の味はどうだい? 俺は多分、おまえのこと嫌いだよ?」 「・・・、っ、俺も・・・」
言いかけて絶句した素直な敦を、 やっと愛しく思えたのは勝ったから。
「敦は嘘がつけないんだねー、 つく必要がなかったもんね今まで、 はは、ざまぁみろって感じかな」
敦の目に浮かぶ、怯えが嬉しかった。 傷つけられるのを恐れている。 これ以上、何か酷い事を言われたらどうしようと、 心配するその立場を、初めて味わっている。
「室ちん、・・・俺の指好きって・・・」 「指はいいけどアレが駄目、 大きすぎるのを喜ぶのはマゾだけだよ、 もっと丁度良いサイズの奴のとこ、行くよ」 「・・・っ」 「敦が行かないで欲しいって、 頼むなら行かないけど」 「・・・」 「なんてね、敦に頼みごとなんて無理か、 じゃぁ、また明日、部活でね?」 「行・・・かないでよ」 「クダサイ?」 「ください」 「もっとちゃんと頼めないと、 聞く気にならないな」 「行かない・・・でくれたら・・・いいなってかー、 行かないで・・・ください?」 「ああ、・・・うん・・・微妙かなー、 必死さ足りない、ごめんね」
捕まる前に逃げる。 戸が遠い。
敦のような、理性が足りない人間が、 よくやってしまう最低の選択を恐れ急ぐ。 無理やり犯される可能性に怯えながら、 やっと戸を開けて外に出て、息をつく。
「俺ってヤな奴だなぁ」
虐げられ歪んで、すっかり醜くなった自分を認識して、 しみじみと呟くと、戸にドンと衝撃が走った。
苛立った敦が、戸に何かをぶつけたらしい。
少し苛めすぎた。
才能ある敦の、不幸が嬉しくて涙が出る。 こんな事で喜びたくない、こんな事で勝っても、 何も意味がない。
練習して練習して、練習して。
勝てたら、きっと、苛めるのをやめにできるだろう。
2:43 2013/05/12
| |
|
Sunday, 12, May | トラックバック(0) | コメント(0) | 紫氷 | 管理
|
この記事へのコメント投稿はできない設定になっています |